イチロー、田中らWBC参加の実現度は? 日本人メジャーリーガーそれぞれの事情

丹羽政善

WBCに参加するかどうかは田中の判断次第だが、ヤンキースの本音は… 【Getty Images】

 9月中頃のこと。マリナーズのフェリックス・ヘルナンデス(ベネズエラ)と雑談していると、来年3月に行われるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の話になった。

――出るの?
 
もちろんだ。
 
――でも、マリナーズから出ないで欲しいと言われない?
 
彼らが「出るな」と言うことはできない。WBCに出るかどうかは、選手に決定権がある。俺たちの権利だ。

――でも、今年はケガをして長く戦列を離れた……

だから、しっかりオフに体を鍛え直して、WBCもシーズンも頑張る。

 ヘルナンデスが言っていることは正論だ。参加するかどうか決めるのは選手で、チームが「見合わせてくれ」と指示することはできない。リスクがあるのなら、それを見越して、選手それぞれが準備をすればいいだけのこと。そうはっきり言えるのは、彼に実績があるからこそかもしれないが、これだけ割り切れたらと、多くの日本人大リーガーは思うかもしれない。

 いい意味でも悪い意味でも、言葉の裏を読み取ろうとするのが日本人であり、これをしたら相手はどう考えるかと思いを巡らせる。そうこうするうち、決断はますます厄介になる。

ヤンキースGMはあいまいな表現

 例えば、田中将大のWBC出場について、ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは米メディアの取材にこう答えていた。

「われわれから(決断を)指示をすることができるとは思わない。たとえ、彼が(体には)問題がないと感じ、実際に問題はなさそうだが、(2016年シーズンに)結果を残したとしても。『(シーズン終了時に)次の春に会おう、それはタンパ(ヤンキースのキャンプ地)か、WBCか分からないけれど』と言ったことは、正しい決断だった」

 なんとも奥歯にものが挟まったような言い方だが、意訳すると、「出場するかどうかは、田中次第」ということになる。かといって“出場”という決断を下した場合、少し心配だ、という含みがにじむ。少なくともキャッシュマンGMは、「君の好きにすればいい」と言っているわけではない。ジレンマがのぞくが、「彼らがナーバスになるのも、分からないでもない」と長くヤンキースの番記者を務める『ザ・レコード』紙のピート・カルデラ記者は指摘した。

「1年目に右肘の靭帯(じんたい)を痛め、昨年の春はスロー調整。シーズン中は登板間隔を度々空けた。昨オフに右肘の遊離軟骨を除去。今年の春もスロー調整で、シーズン中はやはり、登板間隔を空けるなど、ヤンキースは配慮してきた」

 確かに今季の成績――31試合に先発して、199回2/3を投げたのは非凡。ただ、登板間隔の“調整”も事実。それはときに過敏に映ったが、田中がエースであるが故、石橋をたたいて渡って来た。田中にしてみれば、体に不安はなくともそうした事情を考えれば、決断においてチームの思うところを考慮せざるを得ない面はある。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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