快挙達成の16歳・平野美宇、躍進の理由 「悔しさと投げやり」からの心の変化

高樹ミナ

苦しかった昨シーズンを乗り越えて成長

――フォアハンドの威力を増すためにフォームを変えるなど、新たな取り組みを始めた昨年末はつらい時期でしたね。

 何をやってもうまくいきませんでした。12月の世界選手権代表選考会では特に。自分でも何をやっているのか分からないうちにボロ負けしてしまって、元のプレースタイルに戻りたいと思いました。さらにその前(9月)にはリオ五輪の代表に入れないことが決まり、「もういいや」と投げやりになって。でも、五輪に出られないことが悔しくなくなっている自分に悔しかったりもして。
 ただ、そういう時期を乗り越えて、年明けの日本選手権で準優勝できた時はうれしかったです。「今のやり方を続けていけば、必ず結果は出る」と、信じることができました。

――W杯ではサーブも良かったのでは?

 そう、良かった! アジアジュニア選手権(9月16〜21日・バンコク)でめちゃめちゃ調子が悪かった時に、サーブで何とかしようと試合中にあれこれ工夫していたら、バリエーションをつけられるようになったんです。それで今回は組み立てが良くなったと思います。「ラリーで点数を取れなければ、何で取れるんだろう」と考えた時、サーブなら自分の調子に関係なくポイントを取れますよね。本調子じゃない時に学べたのは収穫だったし、調子が良かったW杯でそれを発揮できたのは、さらに良かったと思います。

なくてはならないライバル、伊藤美誠の存在

リオ五輪の練習中に笑顔を見せる平野(左)と伊藤の「みうみま」コンビ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――あらためてリオ五輪を振り返って、どんな大会だったと捉えていますか?

 リザーブメンバーとしてチームをサポートできて、いい経験になりました。一番は東京五輪には選手として出たいという気持ちが強くなったこと。それと、練習相手になったり球拾いをしたりしたことで、普段、自分がやってもらっていることは当たり前じゃないんだって気付きました。サポートする側に回ったおかげで、その大変さが分かりました。

――練習相手はどんなところが大変ですか?

 選手の調子を上げるように努めたり、対戦相手に似せたサーブや打球を出したり。選手が何を思っているかを察して、先回りして準備をします。気を回すことを覚えましたね。

――ただそうは言っても、相当悔しかったのでは?

 悔しい気持ちと、チームがメダルを取ってくれてうれしい気持ちと両方でしたよ。

――W杯では準々決勝で伊藤美誠選手を破って優勝しました。伊藤選手との対戦にはどんな気持ちで臨みましたか?

 世界ランキングは格上(伊藤選手は11位、平野選手は17位。10月時点)だし、リオ五輪の代表選手なので、挑戦者として向かっていく気持ちでした。美誠ちゃんとは小さい頃から本当に抜いたり抜かれたりで、美誠ちゃんがいなければ自分もここまで来られなかったと思います。普段は仲良しだけど、試合で負けると悔しいし、美誠ちゃんも私に負けると悔しがる。そうやってお互い刺激し合ってきました。よく私たち二人は比較されるけど、それは嫌じゃないし気になりません。

中国スーパーリーグ参戦、そして東京五輪へ

中澤コーチによってもたらされた精神面の変化が、プレーの成長にも好影響を与えている 【スポーツナビ】

――思い切ってプレーすることを教えてくれた中澤コーチには、他にどんなことを教わっていますか?

 自分で考えることと、あとは広い心を持つこと。それによって自分が変われた気がします。心が広くなると戦術の幅も広がるんだなって気付きました。だから最近は学校のクラスメートや卓球以外の職業の人とも積極的に話をするようにしています。以前はどこかプライドが高いところがあって、仲の良い友達以外とはほとんど話をしなかったんです。合宿でも基本的に美誠ちゃんとしかしゃべらないみたいな。でも、それじゃ心が狭いなと思って。普段の練習でも選手同士でやるのは好きじゃなくて、特定のトレーナーさんとばかりしていました。

――それはなぜ?

 選手と練習することで攻略されて、試合で負けたら嫌だなと思ったからです。でも、今はそんなことを気にせず、試合で勝てばいいやって思えます。よく考えたら、いろいろなタイプの選手と練習や試合をしたほうが、経験が増えるし、自分の課題も見えて気付きがありますよね。新しいことを取り入れる時も、以前だったら失敗を恐れていたけど、今はやれば成長できると思えます。

W杯王者でも「体重が増えちゃって」と語る素顔は高校1年生だ 【スポーツナビ】

――メンタル面でもフィジカル面でもパワーアップしていますね。

 はい。ただ、体重が増えちゃって。でも、体脂肪率が高いほうが調子いいんですよね。自分ではパワーにつながっていると思っているけど、「それは違う」って周りの人から言われます(笑)。そろそろ痩せないとヤバいかもしれません。

――そんな中、中国スーパーリーグへの参戦が決まりました。

 ずっと前から「行きたいね」って中澤コーチと言っていたんです。決まったのは本当につい最近。中澤コーチと二人で話し合って参戦を決めました。4年後の東京五輪に合わせるには、今、行くしかないねって。圧倒的な強さを誇る中国人選手のプレーに慣れたいです。世界ナンバーワンの丁寧選手や劉詩ブン選手とももちろん対戦します。自分の試合経験を積む以外にも、中国の強い選手たちの試合を見られるので、盗めるものは全部盗んで帰ってきたいです。帰国は11月21日の予定で、その後は世界ジュニア選手権(11月30日〜12月7日、南アフリカ・ケープタウン)に出場します。

――2020年の東京五輪まで残り4年を切りました。ここからどんなステップを踏んでいきたいですか?

 全日本選手権で優勝して、世界選手権も優勝して、東京五輪の団体戦と個人戦両方で金メダルを取りたいです。今年はこれまでにない山あり谷ありの一年で、自分でも成長できたなと感じています。後で振り返った時、きっと忘れられないターニングポイントになると思います。これから中国へ行ってさらに課題を見つけて、もっともっと強くなりたいです。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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