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“新得点源”原口元気が残したインパクト
ドイツでの輝きを代表の左サイドでも発揮

オーストラリア戦でのゴールとPK献上のプレー

オーストラリア戦の先制点は、かつて右サイドでプレーしていた岡崎の裏への飛び出しを彷彿とさせるものだった
オーストラリア戦の先制点は、かつて右サイドでプレーしていた岡崎の裏への飛び出しを彷彿とさせるものだった【Getty Images】

 アルベルト・ザッケローニ監督時代の2011年8月にA代表に初招集されてから、15年6月のイラク戦で初ゴールを挙げるまで、彼は4年の歳月を費やした。その時点でヘルタではポジションをつかんでいたが、代表で絶対的得点源になれるような力はまだ示せていなかった。実際、ハリルホジッチ監督からはユーティリティーな能力を買われてボランチや右サイドバックとして起用されることも多く、原口自身の評価も定まらなかった。そんな時期にも決して腐ることなく、貪欲(どんよく)に周囲から何かを盗んで飛躍しようという泥臭さを持ち続けた。そのメンタリティーは浦和レッズにいたころとは明らかに違っている。


「代表に行くと、オカさんによく質問するんです。『点を取る時、試合中に何を考えているのか』とか。意外に『得点はこだわってない』と言ってましたね。『こだわってたらイライラしちゃうから、得点にはこだわってない』と。俺は結構、考えちゃう方だから、そこは参考にしようと思いましたね。それと、オカさんの何度も裏へ出る動きはまねたいですね。ザック時代はサイドで使われていましたけど、ダイアゴナル(ランで)もう何点取ったんだっていうくらい。あの動きは研究したいですね」とちょうど1年前の今ごろ、原口はこんな話をしていたことがある。


 オーストラリア戦の先制点は、かつて右サイドでプレーしていた岡崎の裏への飛び出しを彷彿とさせるものだった。先人の武器を自分のものにする努力を怠らなかったからこそ、3戦連発という大仕事を達成できたのだ。


 この1点を守り切れれば、日本は敵地で勝ち点3を挙げ、B組2位以内に浮上できるはずだった。ところが、原口は後半開始直後、致命的なミスを犯してしまう。相手左サイドバック、ブラッド・スミスの攻め上がりからのクロスに、守備意識の高い彼は猛然と戻ったが、ペナルティーエリア内で止まり切れず、長身FWトミ・ユリッチを後方から倒す形になった。主審は迷わずPKを宣告。これをキャプテンのミル・ジェディナクに決められ、同点に追いつかれた。


「危ないと思って戻ったんですけど、結果的に……。それでも、何とか止まるしかなかった。ジャッジ的に並行で横からぶつかってもファウルになることが多かったので、なおさら気をつけないといけなかった。今日は本当にプラン通りにいっていましたし、1人1人がノーミスでいっていたので、だからこそ、あのシーンは悔やまれると言うか、申し訳ないと言うか……」と原口は言葉を詰まらせた。

3大得点源依存体質からの脱却へ

オーストラリア戦でPKを献上し、自責の念にかられる原口にハリルホジッチ監督が声をかけた
オーストラリア戦でPKを献上し、自責の念にかられる原口にハリルホジッチ監督が声をかけた【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ヘルタ3年目の今季を迎えるに当たり、原口はスピードに乗った状態からうまくストップするトレーニングを繰り返していたという。「世界トップの選手は止まる技術が高いからこそ、メリハリの利いたプレーができる」という分析から、彼自身もその質を上げようとしたのだ。にもかかわらず、この重要な局面で止まり切れなかった。本人はさらなるレベルアップの必要性を痛感したに違いない。


 これを境に日本は劣勢に陥り、オーストラリアに一方的にボールを回された。本田も「前半は『支配させる』感覚でいられたけど、後半は『支配される』に変わった。これは大きな課題だと思います」とズバリ指摘した。が、香川が「今日はこれ以上、やれることはなかった」とコメントした通り、この日の日本は跳ね返すすべを見いだせなかった。


 原口自身も後半40分、左サイドの突破から本田と代わった浅野拓磨に鋭いクロスを送ったが、追加点にはつながらなかった。このシーンに象徴されるように、相手右サイドバック、ライアン・マクゴーワンとのマッチアップでは完勝していただけに、2点目を取れなかったことが悔やまれてならないはずだ。タイムアップの笛を耳にし、強い自責の念にかられた原口は呆然とベンチに座り込み、指揮官から慰められるほどだった。


「今日の相手はブンデスでやっているよりも全然遅かったですし、自分のプレーは出せていたと思う。今日の戦い方はヘルタに近いので、ものすごくやりやすかったというか、僕自身は慣れていた。俺らがボールを持って彼らが引くより、絶対に効率よく攻撃できたと思うし、2点目を取っていれば決まっていた部分もあった。そこで決められなくて、僕自身もクオリティーが足りなくて悔しいです」


 神妙な面持ちで反省の弁を口にした原口だったが、タイ戦から3試合続けて苦しむ日本を救ったのは紛れもない事実。そこは胸を張っていい。彼のブレークがなければ、日本は4試合で勝ち点7、3位の位置を確保できなかった可能性もあるのだ。原口が3大得点源への依存体質からの脱却、そして世代交代の布石を打ったことも大きな意味を持つ。


 この調子で左サイドで輝き続けるのが原口の使命だ。これまで宇佐美貴史、武藤嘉紀などさまざまな選手が試されてきた左サイド争いで一歩抜け出した男が、ドイツでさらなる力を蓄え、世代最終予選残り6戦で日本を力強くけん引してくれることを強く願いたい。

元川悦子
元川悦子

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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