英国のEU離脱がF1界にもたらす影響 日本GPのカンファレンスで見えた懸念

田口浩次

F1の日本GPが開幕し、フリー走行1回目、2回目ともニコ・ロズベルグがトップタイムをたたき出した 【Getty Images】

 フリー走行初日を終えたF1日本GPは、フリー走行1回目、2回目ともにチャンピオンシップポイントトップを走るメルセデスのニコ・ロズベルグが一番時計をたたき出し、それをチームメートのルイス・ハミルトンが追う展開となっている。

 シーズン終盤を迎えて、強さを増してきたロズベルグだが、「昨年までと何が変わったのか?」とプレスカンファレンスで問われたメルセデスのエグゼクティブ・ディレクター、パディ・ロウ氏は「レースでのしぶとさが増したことだと思う。今年はマレーシアGPのようにレース中のアクシデントで順位を下げることがあっても、昨年だったらそのまま沈んでしまっていたが、今年はそこから粘り強く順位を上げて最高のリザルトを持ち帰ってきている」とロズベルグの変化を評価した。

人材雇用が困難に?

 さて、当然、世界中のファンの目は8日の予選、そして9日の決勝へと向けられているが、金曜のプレスカンファレンスでは、来年以降の話題で沸騰していた。その口火を切ったのは、英国のEU離脱に関する問題だ。英国のメイ首相が発表したように、英国は来年3月までにEU離脱を宣言し、その後、離脱後の関係性について2年間かけてEUとの話し合いが始まる。なぜそこにF1が絡むのかというと、じつは優れた人材の流動性が脅かされるのではないかと心配されているのだ。

 現在、EU圏の人々は英国で働くのに労働ビザを必要としない。しかし、この先はどうなるかわからない。となると、それが障害となって、エンジニアのように特別なスキルを持った優れた人材の雇用が難しくなるのではないかと、ジャーナリストは問うたのだった。確かに、現在英国にチームのファクトリーを置くチームはフェラーリとトロ・ロッソ、そしてザウバーを除く8チーム(ハースはファクトリーは米国だが前線基地を英国に置いている)。優れたエンジニアは世界中からヘッドハントされるし、まだ経験が浅いが、若く優れた人材は長期雇用したいと、どのチームも考えている。

 とくに自身がそろそろF1の最前線を引退し、後進に跡目を譲るといわれているウィリアムズのチーフ・テクニカル・オフィサー、パット・シモンズ氏はこの質問に敏感だった。プレスカンファレンス後に彼を追いかけ、パドックでコメントを取ると彼はこう危惧を示した。

「すでに優れたエンジニアは長期雇用の契約を結んでいて、たとえ英国がEUを離脱しても契約が優先されるので、大きな問題になるとは考えていない。しかし、若い才能を発掘する点においては、一考する必要があるだろう。現在F1では日本人エンジニアや米国人エンジニア、そしてブラジル人エンジニアが多く働いているが、彼らのビザ取得は非常に狭き門だ。一方、EU国籍のエンジニアには規制がない。

 私は政治家ではないので、これはあくまでも個人的な意見だが、人の移動の自由は守られたほうが結果的に繁栄につながると思う。例えば、もちろん英国には優れた若いエンジニアがたくさんいるが、空力の分野に目を向けると、ここはフランス人エンジニアが幅を利かせている。大学で学ぶ流体力学レベルが高いからだ。英国のレース産業は裾野が広く、F1はよくてもその下のGP2やF3といったカテゴリーの運営チームが、煩雑なビザ関連の書類仕事をこなせるとは思えない。結果、英国で働くことのハードルが上がり、才能ある若いエンジニアの数が減少する可能性は否めないだろう。私は、F1において国籍は問わないし、優れた才能が集まって競い合うことこそ大事だと思っているんだ」

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