本田と長友が出場機会を取り戻す鍵は? 苦しいシーズン開幕を迎えたミラノの2人

片野道郎

本田以上に不透明な長友の状況

今シーズン、長友が置かれている状況はここまでのところ不透明となっている 【Getty Images】

 一方の長友が置かれている状況は、本田以上に不透明だ。

 契約満了を目前に控えた昨シーズン末、新たに19年6月までの3年契約を交わした時には、絶対的なレギュラーであるかどうかは別としても、今後もチームにとって重要な戦力として貢献が期待される立場にあったことは間違いない。

 しかし、開幕直前の8月初めに契約延長の判断に重要な役割を果たしたロベルト・マンチーニ前監督が、今夏クラブの経営権を買い取り新オーナーとなった中国の蘇寧グループとの間に生じた意見の不一致を理由に辞任した。その後任にオランダ人の前アヤックス監督、フランク・デ・ブールがやってきて以降、長友の状況は大きく変化している。

 キエーボとの開幕戦(0−2)では、急きょ導入された3バック(3−5−2)の右ウイングバックとして先発したものの、その直後に筋肉系の軽い故障で戦線離脱を強いられた。そこから復帰して間もない9月15日のEL第1節ハポエル・ベア・シェバ戦で90分間プレーしたのを最後に、セリエAで3試合続けてベンチを暖めた。

 29日のEL第2節スパルタ・プラハ戦(1−3)では、U−19から帯同したMFロリス・ゾンタに席を譲る形でベンチ入りメンバーからも外れるという屈辱を味わった。10月2日のセリエA第7節ローマ戦(1−2)では、後半17分に途中出場したが、マッチアップしたステファン・エル・シャーラウィに手こずる場面も見られるなど、目立った活躍を見せることはなかった。

試行錯誤の段階にあるデ・ブールのチーム作り

 インテルでは現在、長友も含めて左右両サイドでプレーできる右利きのサイドバック(SB)が4人(ダニーロ・ダンブロージオ、ダビデ・サントン、クリスティアン・アンサルディ、長友)、そして今季U−19から昇格した左利きのベルギー人左SBセンナ・ミアンゲを含めた5人が、左右2つのポジションを争うという構図になっている。長友は開幕当初、左SBのレギュラーを争う立場にいたが、現在はこの5人の序列の中で4番目あるいは5番目にまで滑り落ちているように見える。

 その理由については、デ・ブール監督の口からは特に何のコメントも出ていないため推測する以外にはない。想定されるのは、出場した2試合(いずれも敗戦に終わっている)でのパフォーマンスに指揮官が満足していないことに加え、8月末の故障離脱の影響をいまだ引きずっておりコンディションが万全ではないこと。プレースタイルやポジションの役割の解釈がデ・ブールのイメージや好みとズレており、他のSBの起用を優先している、といったところだろうか。

 とはいえ、試合ごとに起用するSBの顔ぶれがころころと入れ替わり、左右とも今なおレギュラーどころか、ファーストチョイスすらも定まっていない(これは他の多くのポジションにも当てはまる)という事実は、デ・ブールのチーム作りが今なお試行錯誤の段階にとどまっていることを示すものだ。これは逆にいえば、左右SBのレギュラーポジションをめぐる競争はまだゴールが見えておらず、例え現時点での序列が低いとしても、今後挽回のチャンスはたっぷり残されているということでもある。

 実際長友は昨シーズンも、開幕からの2カ月は控えとしてベンチを温める日々が続いたものの、日々のトレーニングの中で徐々にマンチーニ監督の信頼を勝ち取り、シーズン後半はコンスタントに出場機会を手に入れた。最終的にはリーグ戦全38試合の約半分、22試合に先発出場しているという実績がある。

長いシーズンはまだ始まったばかり

今長友にできるのは、次に与えられる出場機会に備えて日々全力で準備にいそしむことだ 【Getty Images】

 イタリアでは長友がELでベンチ入りメンバーからも外れた事実を取り上げて、もはやデ・ブール監督の構想から外れた、冬のマーケットで移籍の可能性も――。といった報道も目に付くが、それはあまりにも短絡的な解釈にすぎるように思われる。見たとおりデ・ブールのチーム作りは、まだ試行錯誤の段階にとどまっている。これも一部で短絡的に報道されているように、もし仮にデ・ブールがこのまま結果を残せずに解任されるような事態にでもなれば、現在の序列はまたリセットされることになるだろう。

 そう考えると、インテルで長友が置かれている状況は、ミランで本田が置かれているそれよりも、当面の見通しはむしろ明るいと言えるかもしれない。今長友にできるのは、次に与えられる出場機会に備えて日々全力で準備に勤しむことだけだ。それをどれだけ突き詰められるかが、次のチャンスでどんな結果を出せるかと直結していることを、彼は誰よりもよく分かっているだろう。

 同じことは本田についても言えるはずだ。モンテッラが試しているという左サイドでの起用にどんな答えを出せるか、そしてもちろん右ウイングのポジションをめぐるスソとの競争において、指揮官にどんな選択肢を提示できるのか。本田は日々全力でそれを考え、自らを磨き続けているに違いない。

 本田と長友、どちらにとっても長いシーズンはまだ始まったばかりである。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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