人気低迷と言われるF1界だが… モータースポーツの成長戦略を紹介

田口浩次

親子をターゲットにしたアトラクション

鈴鹿サーキットには実際のサーキットを電気自動車で走行できる「Circuit Challenger」というアトラクションがある。写真は2015年のF1日本グランプリのもの 【Getty Images】

 6月に開催されたル・マン24時間レースでは、26万3500人の観客が会場を訪れたという。しかし、これほどの盛況なレースは稀で、日本を含め、世界各地のF1開催地や、モータースポーツの世界では、いかにファン層を広げるかという課題に直面している。日本のF1ブームは1987年に始まったフジテレビによる地上波放送で一気にブームとなった。今年はBS放送もなくなるなど、当時のブームと比較すると、その熱は比べるべくもないが、じつは地道な活動がすでにスタートしている。

 日本グランプリを開催する鈴鹿サーキットと、MotoGPを開催するツインリンクもてぎでは、レーシングコースを走行する新たなアトラクションを今年から開始した。鈴鹿サーキットでは、EVマシン(電気自動車)による『Circuit Challenger』。インディドライバーの佐藤琢磨がプロジェクトアドバイザーとして監修し、2名乗車の車両で本コース(東コース)を走行できる。ツインリンクもてぎは、『サーキットカート』という2名乗車のゴーカートで本コース(西スペシャルコース)を走行できるというもの。

 鈴鹿サーキットの『Circuit Challenger』はいろいろと凝っていて、ドライバーはいきなりEVマシンに乗るのではなく、テーマパークのアトラクションのごとく、何を目的に走るのか、どんなマシンなのかなど、専用の屋内施設で説明を受け、そのあと、車両と対面する。

 マシン操作はEVマシンの特性を生かし、ドライブ・バイ・ワイヤ(電気信号で制御するシステム)を実現し、操作のすべてをハンドルに集約。アクセル、ブレーキ、シフトチェンジがすべてハンドル上で行える。これらを使って、4つのミッション(ハンドリング、シグナルスタート、シフトアップ、アクセルコントロール)をクリアし、その走行データをスコア化する。そのスコア化したデータは専用アプリに読み込むことで、挑戦者によるランキング表示などが可能になる。いまの時代に合ったアトラクションだ。

 この鈴鹿サーキットの『Circuit Challenger』やツインリンクもてぎの『サーキットカート』が狙っているのは、ズバリ、親子層。F1ブームを知る世代を通じて、次世代のモータースポーツファンを開拓すべく、長期的な戦略を進めてきたといえる。

 実際に体験してみたが、自分の走りがスコア化されるというのは非常に面白い体験。データロガーで走りをチェックしているかのように、次はもっと良くしようと、自然とスムーズな運転を目指している自分に気づいた。そして、子供にとっても、親にとっても、本物のF1コースを走る経験は、きっと思い出深いものになるだろう。

豊橋市の本格的カートサーキット

 次世代層へのアプローチとして戦略を練ったものが、鈴鹿サーキットやツインリンクもでぎだとしたら、コンタクトする場所にアプローチしてきたのが、元F1ドライバーの山本左近を生んだ愛知県豊橋市だ。

 豊橋市にある総合動植物公園『のんほいパーク』は、週末ともなると地元豊橋市民だけでなく、近隣住民も多く集まる市民の憩いの場だ。その『のんほいパーク』内にあった、ジェットコースターの老朽化による取り壊しに合わせ、その敷地に新たな魅力あるアトラクションとして3月23日に誕生し、6月からは体感時速80キロという、スピードアップを果たしたのが、『のんほいサーキット』だ。

 ここは、豊橋市の佐原光一市長が、ジェットコースター跡地の候補として、豊橋市出身の元F1ドライバー山本氏をアドバイザーに招聘して、本格的な走行ができるサーキットとして開発を進めるよう指示。山本氏は「他にはない特徴を持つサーキットにしたい」と、撤去予定だったジェットコースター時代の岩山などを残し、それをコースレイアウトに生かした。まるで市街地コースのコーナーへ攻めるような、感覚が味わえるのは、全国のカートサーキット場を探してもここしかない。しかも、豊橋市が運営するカートサーキットなので、値段も5分走行(約8〜12周可能)で1000円と、この手のレンタルカートのなかでは格安の部類。

 ここ『のんほいサーキット』は、モータースポーツの楽しさを手軽に味わってもらい、そこから本格的なレース活動や、第二の山本左近を誕生させるような壮大な夢があふれている。そこまで壮大な夢でなくとも、家族サービスするお父さんからすれば、自分が本気で楽しめてしまうアトラクションが総合動植物園に誕生したと思えば、家族サービスを理由に毎回走りにくる人もいるに違いない。

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