再建途上のヤンキースに驚異の若手が登場 サンチェスの活躍でPO進出なるか?

杉浦大介

新人初の2週連続週間MVPの活躍

MLB昇格後、驚異的なバッティングを披露しているサンチェス 【Getty Images】

 23試合で11本塁打――。そんな数字を聞いたら、高校野球か何かでマークされた記録だとたいていのベースボールファンは思うだろう。しかし、これが世界最高のメジャーリーグで、成し遂げたのは23歳のルーキーだというのだから仰天するしかない。

 ヤンキースの大型新人、ゲーリー・サンチェス捕手は8月3日(現地時間)にメジャー昇格後に脅威的な大爆発を続けている。10日のレッドソックス戦で初本塁打を放つと、その後も量産体制を継続。23試合目にあたる27日のオリオールズ戦で早くも11号を放ち、1996年にレッドソックスのジョージ・スコットがマークした26試合を更新するメジャー新記録を樹立した。

 8月21日までの6試合で打率5割2分4厘、4本塁打、28日までの6試合でも打率5割2分2厘、5本塁打、9打点を放ったサンチェスは、新人では史上初となる2週連続でア・リーグ週間MVPを獲得。8月を終えた時点で、打率3割7分4厘、11本塁打、OPSは1.239と、とてつもないスタッツをキープしている。

「(これほどの打棒が)簡単にできているわけではない。ただ1つ言えるのは、毎日試合で使ってもらえるようになって、自信がついてきているのは確かだ」

 陽気な選手が多いドミニカ共和国出身にしては実に大人しいサンチェスは、自身の成功についてそんな控えめな言葉を残していた。

 もともと打力は高く評価されてきたプロスペクトだが、昨季はメジャーでわずか2試合に出場しただけ。今春は開幕メジャー入りが有力視されながら、春季キャンプで22打数2安打に終わり、マイナー行きを余儀なくされた。

 繊細さも感じさせるサンチェスには、本人の言葉通り、定期的に試合に出て自信をつけることが必要だったのだろう。新しい環境に慣れさえすれば、才能はもともとお墨付き。打つだけではなく、捕手としての守備力への評判も良く、盗塁を仕掛けた最初の19人のうち8人を刺した強肩も魅力だ。

生え抜きスター候補にNYも熱狂

 これほどの活躍を、新しいもの好きのニューヨーカーが放っておくはずがない。ヤンキースのラジオアナウンサー、ジョン・スターリングは大型新人に“サンチャイズ(サンチェスとフランチャイズを合わせた造語)”という愛称をプレゼント。あどけなさの残る怪童は、宝石箱をひっくり返したような街の最新センセーションになった。

 もちろん現在の打撃ペースが今後も続くはずがなく、徐々にクールダウンするだろう。3Aでは今季71試合で打率2割8分2厘、10本塁打、50打点だった選手にとって、ここまではうまく行き過ぎの感がある。ただ、例えそうだとしても、サンチェスが注目に値するタレントであることに変わりはない。

 デレク・ジーター引退後のヤンキースには、“カネを出しても見たい”と思える魅力のあるスターが不在だった。しかし最近ではサンチェスが打席に立つと、メディアはキーボードをたたく手を止め、ファンも会話を中断し、そのスイングに集中する。生え抜きのスーパースター候補が躍り出たことの意味は、せっかちな大都会に本拠地を置くこのチームにとって計り知れないほど大きい。

 サンチェスの活躍に活気づけられるように、ヤンキースは意外な形でプレーオフが狙える位置にとどまり続けている。9月1日時点で、ワイルドカード圏内のオリオールズまで2.5ゲーム差。今シーズンも残り30試合となり、ニューヨークでももうしばらくはエキサイティングなベースボールが楽しめそうだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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