クラブチームの魅力って何? 9月2日から全国大会が西武ドームで開幕

楊順行

かなり高いレベルの硬式版・草野球!?

個性的な面々が集うクラブチーム。中には都市対抗で優勝候補を撃破するチームも(写真は2015年の都市対抗で優勝候補・日立製作所を破った信越硬式野球クラブ) 【写真は共同】

 突然ですが……味噌カツ、ご存じですか? そう、ソースではなく味噌をベースにしたタレを豚カツにかける、名古屋メシである。その味噌カツの老舗『矢場とん』が、野球部『矢場とんブースターズ』を創部したのは、2014年。3年目の今年、クラブチーム野球の最高峰・全日本クラブ野球選手権(9月2〜5日・西武プリンスドーム)に初出場する。

 そもそもクラブチームとは、日本野球連盟(JABA)の登録規定によると、「会社登録以外のチームをいう」。これだけでは味も素っ気もないが、年齢も職業もバラバラの有志が地域、出身校、知人の誘いなどで集まったチームだと考えればいい。たとえば矢場とんのように、特定企業のサポートによって、比較的練習環境の整ったチームもあるが、個人会費や後援会組織、地元自治体などの支援による活動が多い。選手は異なる企業で自分の仕事をこなし、なんとか週末のグラウンドが確保できれば全体練習、そうでなければツテをたどって練習試合……というスタイルが一般的だ。誤解を恐れずに言えば、かなり高いレベルの硬式版・草野球、といったところか。

都市対抗では優勝候補を倒す金星も

 社会人野球の頂点・都市対抗野球の草創期は、クラブチームが主役だった。だが戦後になると、企業チームが台頭。素材というソフト、練習環境というハードの両面で、クラブは太刀打ちできなくなり、都市対抗出場がきわめて困難になった。そこで1976年、クラブチームの全国大会として創設されたのが、全日本クラブ選手権である。

 JABAの登録ではその当時、企業チームのほうが多かったが、クラブチームの数は右肩上がりだ。05年、タレントの萩本欽一氏が茨城ゴールデンゴールズを立ち上げたのも拍車をかけ、78年に全国で131だった登録クラブ数は、現在258である。そして、クラブとはいえ侮るなかれ。14年の都市対抗には、全足利クラブと松山フェニックスという強豪クラブチームが、地区予選で企業チームを破って都市対抗出場を果たしたし、常連の信越硬式野球クラブなどは15年の都市対抗で、優勝候補の日立製作所を倒す金星を挙げているのだ。

横須賀の米海軍と練習試合

河野和洋さん(左)と、元ダイエーの養父鉄(右)さん。専修大出身の河野さんにとって、亜細亜大出身の養父さんは1年先輩という面識があり、米軍チームのコーチを務めている縁で対戦が実現した 【提供:千葉熱血MAKING】

 話変わって……。

「取材に来てくださいよ」と河野和洋さんから電話があったのは、7月下旬だった。河野さんといえば92年夏の甲子園で、星稜高・松井秀喜を5打席連続敬遠した明徳義塾高の投手その人である。高校野球の特番などにもたびたび登場しているから、ご存じの方も多いだろう。高校卒業後は野手として専修大学、社会人ヤマハ、アメリカ独立リーグでプレーし、いまはクラブチーム・千葉熱血MAKINGの監督兼選手である。森田健作・千葉県知事の肝いりで、06年に日本野球連盟に登録した「熱血」は、昨年のクラブ選手権では、初出場ながらベスト4まで進んだ強豪だ。

 その「熱血」が8月6日、米軍横須賀基地で親善試合を行うというのだ。相手は、米海軍などで構成された「ミリタリーベースボールチームUSA2016」。たまたま6日は、横須賀基地が年に一度、敷地内を一般開放する「ヨコスカフレンドシップデー」で、そのプログラムの一環として親善試合が企画されたのだ。米軍基地内で、日本のクラブチームが試合をするのは初めてで、河野さんいわく、「太平洋戦争で広島に原爆が投下された日だからこそ、国境を越える意義がある」。さまざまな縁があり、JABAの快諾も得て行われた試合は、5回打ち切りで10対10の引き分け。

地域貢献などをやっていきたい

ふだんはソフトボールやリトルリーグ用の球場のため、”置きマウンド”を利用しての試合だった 【提供:千葉熱血MAKING】

 ソフトボールサイズの球場ながら、満塁本塁打を放った河野さんは振り返った。

「花火大会などもあり、通りがかりも含めて3000人ほどは見てくれたんじゃないでしょうか。野球を楽しむというアメリカチームの姿勢は、選手たちにはあらためて勉強になったはず。クラブ選手権出場を決めての親善試合だったら、もっと良かったんですが……」

 実はこの試合のおよそ1週間前の7月31日、クラブ選手権の関東2次予選が行われた。「熱血」は順調に決勝まで進出したが、3点リードの9回2死満塁。漫画でもありえないような、逆転満塁サヨナラホームランを浴び、手にしかけた2年連続出場を逃していたのである。

 それでも、河野さんは言う。
 
「これからも地域貢献、チャリティー、もっと面白いイベントをやっていきます。クラブチームとしてできることならなんでも、ね」

居酒屋のバイト、元プロ、県警――

 そうなのだ。クラブ選手権では勝敗もそうだが、出場チームのクラブならではの個性も楽しみのひとつだ。たとえば昨年の「熱血」では、バイト先の居酒屋で体格のよさから声を掛けられ、たまたま加入した選手がホームランを放っているし、あるチームでは40歳オーバーのベテラン投手が好投する。かと思うと、元プロ野球選手がマウンドに立ったり、チームのオーナーである野球好きの芸能人がひっそりと客席で観戦していたり。

 2日から始まる今大会も、片岡安祐美監督率いる茨城ゴールデンゴールズ、元プロ野球の名選手・谷沢健一総監督のYBC柏、最多の10回優勝を誇る全足利クラブ(千葉ロッテ・岡田幸文も在籍していた)……。それに冒頭・矢場とんブースターズの片貝義明監督も中日でプレーした元プロ選手だし、同じく初出場の県警桃太郎は、兵庫県警察の硬式野球部となかなかユニークだ。

 優勝チームには、日本選手権の出場権が与えられる。クラブチームがもし、日本選手権で企業チームにひと泡吹かせるようなことがあれば、なんとも痛快じゃないか。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント