国枝のチェアワークを支える車いす エンジニアが語るこだわりと調整法

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選手たちのこだわりが詰まった車いす

競技用の車いすには、選手たちのこだわりが詰まっている 【Getty Images】

 選手の技術や戦術、メンタルなど、スポーツの勝敗を分けるポイントはさまざま存在する。現地時間9日に始まったリオデジャネイロパラリンピックの車いすテニスでは、選手たちの乗りこなす競技用車いすの存在も、勝敗を左右する大きなポイントのひとつだ。

 座面から腰を浮かせること、足で操作すること、コートへの足の接地が認められないなど細かなルールはあるものの、選手たちは車いすを自由にカスタマイズすることができる。背もたれの高さや角度、足の位置、ラケットを持った時の安定感など、車いすには選手たちのこだわりが詰まっている。

 そんな選手たちの要望を形にする車いすエンジニア、オーエックスエンジニアリングの安大輔の存在をご存知だろうか。競技用の、しかもテニスに特化した車いすを専門に取り扱って12年、リオでは国枝慎吾(ユニクロ)や上地結衣(エイベックス・グループ・ホールディングス)、眞田卓(フリー)、三木卓也(トヨタ自動車)、齋田悟司、二條実穂(ともにシグマクシス)と6人の日本代表選手の車いすをサポートしている。

 ゆっくりと時間をかけて選手の要望を引き出し、細かな改良を繰り返す。今回は安に奥深い、競技用車いすエンジニアの仕事について、その一端を語ってもらった。

身体状況とプレースタイルに合わせてカスタマイズ

車いすはオーダーに合わせて1台ずつ手作り。それでも、乗りこなすまでは細かな調整が必須となる 【スポーツナビ】

 安は車いすを1台作るために、1回3〜4時間の打ち合わせを何度も繰り返す。選手のプレースタイル、そして身体状況に合わせてパーツの寸法を決めるためだ。

 例えば、近年はパワー重視のテニスがトレンドとなっており、より力強いショットを打つことができるよう座面を高くする傾向がある。しかし、パラリンピック2連覇中の王者・国枝の場合、こだわるポイントは別にもある。

「重要なのは選手が何に重きを置くかなんです。チェアワークと呼ばれる車いす操作の技術なのか、力強いショットを打つことに重きを置いているのか。彼(国枝)の場合は前者だったので、高い座面にはなりませんでした。結局、(ボールに)追いつかなければテニスにならないわけですから、追いつくための寸法になりました」

 座面の高さを上げすぎると車いすのこぎやすさや旋回性が失われてしまい、ボールの落下点にたどり着くことができない。「自分のテニスを支えているのはチェアワーク」と語る国枝にとって、ボールに追いつくことも重要なのだ。安は無数にある調整ポイントから、旋回性を生み出す「ハの字型になったホイールの角度」「車軸の位置」「重心の位置」という3つの関連性を考えて、国枝にとって最適なバランスの車いすに仕上げていった。

 もうひとつ大事なのは、選手がどんな障がいを持っているのかを考えること。どこが動かなくて、どこまで感覚があるのか。足があるけれど動かないのか、切断したのか。感覚をすり合わせるために、妥協は許されない。

「健常者は地面を足の裏で捉えて、頭の位置までにたくさんの関節があってそれを制御できる。車いすを必要とされる方の場合、制御できる部分が少ないんですよね。それを制御できるように車いすの方を工夫するんです」

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