大阪での初取材、感じた“ホーム”の愛情 ライター島崎が語るJリーグの魅力(2)
サッカー専門誌の編集部に入社、わずか3日後に任されたのは?
初めて任されたのは、当時G大阪に所属していた稲本選手の移籍前最後の試合でした 【写真:アフロ】
当時の僕は記事や原稿を執筆した経験が一切ありませんでした。まさに正真正銘の素人です。こんなんで良いんだろうか? そうか、おそらくこれからしばらくは研修期間として、先輩から厳しくも愛のあるレクチャーを受け、そこで文章能力や取材能力などを鍛えられ、ゆくゆくは僕も一記者としてさまざまな試合会場へ足を運ぶようになるのだなあと思っていました。
違いました。
入社からわずか3日後、居酒屋の席で僕の入社を認めてくれた編集長が「シマちゃん、ちょっと大阪へ行ってくれる?」とのたまうではないですか。話によると、その日はJリーグのガンバ大阪と鹿島アントラーズのゲームがあり、試合後にイングランド・プレミアリーグのアーセナルへ完全移籍する稲本潤一選手(現・コンサドーレ札幌)の『さよならセレモニー』が催されるとのこと。
そこで、本雑誌では巻頭からぶち抜きで『稲本潤一大特集』を組むことになっていました。先輩であるG大阪担当記者は巻頭記事の作成で忙しい。だから新人の僕に試合のレポート原稿を書けと、そのような指示だったわけです。
「えーっ、まだ何にも文章の書き方を教わってないですけれども……」と絶句する僕を尻目に、鬼の編集長は「大丈夫、大丈夫。みんなそうだったから」と平静沈着。「いや、だって編集長、僕の入社を決めてから、まだ一度も僕の原稿を読んだことないような……」と言うと「ああ、じゃあ、今回の原稿で確かめるわ。大丈夫。ひどい原稿だったら、全部俺が添削してあげるから(ニコッ)」と返ってきました。
ガーン、いきなり実戦部隊に投入です。こんなの、いきなり火縄銃を持たされて戦場へ向かわされる気分です。どうしよう……。
Jリーグ観戦の経験はたったの一度だけでした
ガンバ大阪のマスコット、ガンバボーイ。人間なんですね 【写真:フォトレイド/アフロ】
前夜から遠足前の小学生状態で寝不足です。新幹線の車窓から富士山を眺めて「ほえ〜」とため息をつき、京都駅から見える東寺の五重塔の美しさに目を奪われていると、約2時間30分で新大阪に着きました。おお、道行く人々が皆関西弁だ! 「当たり前やんか」という先輩記者の声も耳に届かず、タクシーで万博記念競技場前に降り立つと、うわー、青黒と臙脂(エンジ)のユニホームを着ている人々が多数集結しているではないですか。
実は僕、勇ましくサッカー専門誌記者を拝命したくせに、当時はJリーグ観戦の経験がたったの一度しかありませんでした。しかもそれは93年に興味本位で友達と行った、鹿島vs.名古屋グランパスのJリーグ開幕戦だけという体たらくだったのです。
G大阪のホーム、『万博』には独特の空気感がありました。スタジアム前に軒を連ねる屋台からはたこ焼き、お好み焼き、焼きそばなどの匂いが漂っています。さすが粉もんの街です。G大阪のクラブマスコットは人間なんですね(ガンバボーイです)。『勝て、勝て、勝て、勝て、ホームやぞ!』という横断幕。やっぱりホームでは勝たなきゃ駄目ですよね。でも、試合前の僕はまだ、サッカースタジアムの“ホーム”というものが何なのかを分かっていませんでした。