岩隈の評価通りだった田中の投球 かつての楽天2枚看板による緊迫の投手戦

丹羽政善

最近の投球に「調子が上がってきた」

岩隈が「最近調子が上がってきている」と評したとおり、日本時間25日のマリナーズ戦で7回無失点、11勝目を挙げたヤンキース田中 【Getty Images Sport】

「なにもないっすよ。“頑張ります”って書いておいてください」

 現地時間22〜24日までシアトルで行われたヤンキースとのシリーズ初戦の試合前、2日後に投げ合う田中将大(ヤンキース)のことを聞かれると、岩隈久志(マリナーズ)はまともに答えようとしなかった。

「あっ、ミーティングに行かなきゃ」

 一方、登板前日の練習後に取材に応じた田中は、「やっぱ、こっちで日本人同士が投げ合うっていうのは、なかなかないことなので、僕自身いつもとは違う感情がある」と答え、大人の対応だった。

 もっとも、岩隈もあとでいろいろと答えている。

 ミーティングから帰って来た後、手を変え品を変え聞いていると、「田中、(状態)いいでしょう?」と岩隈。「調子、上がってきたんじゃない」と最近のピッチングの印象を口にし始めた。

数センチの差を見抜く岩隈の目

 普段見ることはないとはいえ、そこは長年チームメイトだったからこそか、岩隈の田中分析は、例えば、1センチほど髪の毛が短くなっている、あるいは、わずかに痩せた、太ったという、他の人では、絶対に分からないようなレベルにまで目が届く。

 昨年のこと。田中は4月終わりから5月終わりまで故障で戦列を離れていたが、シアトルで行われた6月3日のマリナーズ戦で復帰を果たした。その日の試合前、マリナーズのクラブハウスでは田中のリハビリ登板のときの映像が流れていたが、それを見ていた岩隈がボソッと言った。

「下がってますね」

 試合後にあらためてどういうことかと聞くと、リリースポイントが“下がっている”とのこと。実際にデータを確認すればその通りで、岩隈はわずか数センチの差を見抜いていた。

 よって、「調子、上がって来たんじゃないですか」という評価は聞き流せなかったが、実際その通りだった。

田中は変幻自在の投球で翻ろう

 立ち上がりそのものは、決して良くなかった。

「もがいていた」とヤンキースのジョー・ジラルディ監督も指摘。田中自身も力んでいたことを認めていたが、2回裏1死二、三塁のピンチでは後続をきっちり仕留め、3回も青木宣親の二塁打などで1死一、二塁となった場面では、ロビンソン・カノをサードゴロ併殺打に打ち取り、無失点で切り抜けている。

 マリナーズとしてみれば、その3回までに田中から1点でも2点でも返せなかったのが響いた。田中の制球が定まらなかったのはそこまで。4回から7回まではわずか2安打に抑え、二塁を踏ませなかった。

 試合前日の会見で田中は、「自分にとっての強みはいろんなピッチングが出来ること」と話し、「いろいろなボールを主体に、(ピッチングの)幅が、自分ではあると思っている」とも語ったが、途中からはカーブを増やして目先を変える。変幻自在の投球にマリナーズ打線は翻ろうされた。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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