日本陸上界に育つ規格外のスプリンター ウォルシュ・ジュリアンが描く4年後

平野貴也

競技開始から4年でつかんだ五輪出場

400メートル、マイルリレーで予選敗退も、夢を抱かせる大器、ウォルシュ・ジュリアン 【平野貴也】

 五輪は本来、競技を始めて4年程度で立てる舞台ではない。しかし、規格外の男はその場に立っていた。ジャマイカ人ミュージシャンの父と、日本人の母を持つ陸上選手、ウォルシュ・ジュリアン(東洋大)だ。気まぐれなタイプだが、高校2年で短距離に注力してから急成長。6月に日本選手権の男子400メートルで自己ベストを更新して初優勝。リオでは同種目とマイルリレーに出場した。残念ながら負傷の影響もあり、両種目とも予選敗退となったが、2020年東京五輪に向けて貴重な経験を得た。キャリアが浅い分、伸びしろは豊富。可能性あふれる規格外ランナーに話を聞いた。

――まず、今大会の結果と内容を振り返って、どのような感想ですか?

 個人種目は、自己ベストを出していれば予選を突破できていたので、悔しいですね。いつもなら最後のカーブでまだ余力があって、ギアチェンジをしてスピードを出せるのですが、カーブを曲がったらもう何も(余力が)なかったです。言い訳をしてはいけないんですが、こっちに来てからちょっと左のくるぶしの辺りを痛めてしまって、直前調整がうまくできませんでした。米国での事前合宿でも熱を出して寝込んでしまったり、調整はもっと気を付けないといけないなと思いました。それでも、リレーの日には復調してきて、個人的にはベストに近い力は出せたと思います。でも、チームとして完全に実力不足でした。

――ウォルシュ選手は、レースとは無関係なケガが多いのが気になっています。

 そうなんですよね。高校3年生のとき、モロッコで行われたコンチネンタルカップに出たときも、直前の筋力トレーニングで張り切り過ぎて腰を痛めてしまいましたし、あの頃はバック転の練習をしていてケガをしたり……。いつも何かやってしまうんですよね。

――初めての五輪出場。大会の雰囲気はどのように感じましたか?

 当たり前ですけど、関東インカレなどの大会とは比べ物にならないですし、これまでに経験したほかの世界大会とも規模が違います。すべてのスポーツにおいて、最高峰の場なんだなと感じました。こういう場は好きですが、想像を超えていて、会場が何か生きている大きな怪物のように感じました。すごく良い経験になりましたし、次に生かせるというか、もう驚かずにしっかりやれると思うので、それは良かったです。あと、周りの強豪選手はやっぱり迫力があったし、あの舞台であんな走りができるなんて、メンタルが強いなと感じました。

――選手村の様子など、競技以外で刺激を受けた部分はありますか?

 選手村でレスリング(女子53キロ級)の吉田沙保里選手を見かけたんですよ。霊長類最強の人じゃないですか。どんな感じの方かなと近付いてみたら、勝てる気がしなかったです。普通に勝てそうにないと思わされるオーラというか、僕の本能が「戦っちゃいけない人」と認識してました(笑)。

 海外のいろいろな選手も身近に見られました。食堂に行ったらジャスティン・ガトリン選手(米国、男子100メートル銀メダル)がいて、びっくりしました。ウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)は、建物の前でちょっと見かけた程度でしたけど、ワクワクすることがたくさんあって、ここでの生活は時がたつのが早いなと感じます。コーチたちが、五輪はあっという間に終わるよと言っていましたが、本当にあっという間でした。レースが始まるまでは、とにかく早く走りたいという気持ちでいたのですが。

――出場種目ではありませんが、短距離勢としては4×100メートルリレーが快挙を成し遂げましたね。

 自分のレースが終わった後、会場で見ていました。メダルは絶対に取れると思っていましたが、まさか銀メダルとは思わなかったですし、またアジア記録を更新しちゃうし、興奮して「ウワーッ!」と騒いじゃいました。すごくうれしかったです。でも、自分もあの場に立っていれば…、という悔しさも感じたので、その気持ちを次につなげられたらいいなと思っています。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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