全日本女子、米国との差は何か? 大山加奈が見た五輪バレーの戦い

田中夕子

機能していなかったサーブ

リオ五輪での敗戦は、技術面やベンチワークだけでなく、4年後の東京五輪へ向けた大きな課題がバレーボール界に投げかけられた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 そしてもう1つのポイントは、日本が勝つために一番大切なポイントであるはずのサーブが、残念ながら米国戦も機能していなかったことです。
 特に第1セットは荒木選手のサーブでブレークしたものの、全体のコンセプトが見えづらく、どんな意図を持って打っているのかが分かりづらく感じました。実際に日本の選手の多くが後衛レフトの選手を狙っていたのですが、それもほとんど正面でした。

 米国はそれほどバックアタックが多いチームではないにもかかわらず、前衛レフトを狙って攻撃枚数を減らすのではなく、後衛レフトを狙うということは、ミドルが助走へ入りにくいようにする、という目的があるように考えられますが、ミドルを封じ切れていたわけではありません。
 加えて、前衛レフトの選手に対してはブロックが2枚付き、ワンタッチをうまく取る場面もありましたが、せっかくタッチを取ってもバックセンターに入るウイングスパイカーやリベロの選手が前に詰めてしまうため、コートの奥に飛んだボールを拾えないケースも目立ちました。

 サーブもレシーブの位置も、試合前に相手のデータを入れ、十分な準備をして臨んだはずです。それでも試合になればうまくいかないことや、想像を上回ることもある。そんな状況を乗り切るためには、どれだけチームの中で約束事が徹底されているかということが大切なのですが、残念ながら米国戦に限らず、今大会では「なぜ?」と思うことが多くありました。
 膨大な時間をかけ、この試合に向けた準備をしてきたことは十分に理解していますが、うまくいかない状況に陥った時こそ、ベンチからもっと指示を出してあげてほしい。改善できないまま戦わなければならない選手は、とても苦しかったのではないでしょうか。

経験こそが4年後への大切な要素

 金メダルを目指した戦いは準々決勝で終わり、選手もスタッフも、応援してきた方々にとっても本当に悔しい結果になりました。すぐに気持ちを切り替えることは難しいですが、それでも4年後には東京五輪が開催されます。

 初めての五輪という独特の雰囲気にのまれながらも、試合を重ねるごとに調子を上げ、最後の米国戦で一番良いパフォーマンスを見せた長岡選手、石井選手、宮下(遥)選手はこの大会で苦しさも手応えも感じたはずです。そしてその経験こそが、4年後の東京でリオでは叶えられなかった上位進出を果たすための大切な要素になることでしょう。

 リオ五輪では柔道、競泳、卓球などメダルラッシュが続き、多くの方々がスポーツに関心を示す中、バレーボールが5位(最終順位、準々決勝敗退)で終わってしまったこと。これはとても重い事実です。なぜなら28年ぶりのメダルを手にしたロンドンからの4年ですら、バレー人口はほとんど増えていないからです。
 トップチームや選手の人気に頼るだけでなく、どうすればバレーボールの魅力が伝えられるのか。なぜ女子は準々決勝で敗れ、男子やビーチバレーボールはリオに出場できなかったのか。東京五輪だけでなく、その先の未来に向けて、バレーボール界に大きな課題が突きつけられているのではないでしょうか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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