意図を明確に、やることを徹底せよ 山本隆弘が女子バレーGLを総括

田中夕子

求めるばかりでなく、時には自分が合わせる

宮下(中央)ら若いセッターに求めるばかりでなく、周りが合わせることも重要と話す 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 セッターの宮下(遥)選手と田代(佳奈美)選手はどちらも五輪初出場で、まだ若い(宮下が21歳、田代は25歳)。トスワークに関して経験の少なさで迷いが生じることもあるのかもしれませんが、印象としては2人ともボールの下に入るのが早くないため、攻守の切り替えが遅くなっています。カメルーン戦で途中出場した田代選手はハンドリングが良く、一見すると打ちやすいように思われますが、ボールの下に入る遅さをハンドリングでカバーしているので、トスがアンテナまで伸びず、スパイカーがクロスにしか打てない状況になるシーンも目立ちました。

 ただし、それをすべてセッターのせいにするのではなく、スパイカーも工夫が必要です。自分が良い状態で打つことばかりを待つのではなく、「トスが短い」と感じるなら助走の入る位置を少し中にずらすなど、入り方を変えることでセッターも楽になるはずです。

 アルゼンチン戦の序盤はトスが合わなかったのかフェイントばかり目立ちましたが、相手チームもあからさまなフェイントばかりされれば脅威ではありません。セッターも「自分のトスがよくなかった」と分かっている上にフェイントばかりでは、なかなか改善できないでしょう。

 現役時代の私は、ネットよりも高く上がったボールはすべてスパイカーの責任だと思ってやっていました。多少合わないトスだとしても、打ちにくいからといってフェイントばかりに逃げるのではなく勝負する。そしてセッターに「次はもう少し高くして」とか「もうちょっと伸ばしてもらった方が打ちやすい」と要求すれば、セッターも自分のトスをカバーしてもらったのだから、「頑張って打ちやすいトスを上げよう」と努力するはずです。

 求めるばかりでなく、時には自分が合わせる。それこそがチームとして戦う上で、最も重要なことなのではないでしょうか。

守備はチームとしての約束ごとを明確に

リベロ佐藤の守備範囲など、チームとしての約束ごとを明確にする必要がある 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 守備の面で気になったのは、リベロのレシーブ位置です。

 相手のレフトからの攻撃に対して、味方の前衛レフトの選手とリベロの選手は並んで守備に入ることが多いのですが、その時点でリベロの佐藤(あり紗)選手と前衛レフトに入る木村選手、石井選手の守備位置が重なってしまっていることが少なくありません。

 本来リベロはサイドの選手と並ぶか、少し後方で違うコースに飛んでくるボールを待たなければなりません。しかし、ここまではどんどん前に突っ込んでしまっているため、結果的にサイドの選手が取るべきボールを邪魔してしまったり、本来後方で自分が取らなければならないボールをカバーできていない。3枚ブロックがせっかくそろっているのに、抜かれたコースを守っていなかったため、「何でそこにいるの?」という場面も何度かありました。

 リベロがよく拾っていた印象があるロシアは、守備に関しても完全に割り切っていました。まずサーブはウイングスパイカーに攻撃参加を遅らせるため、木村、石井両選手をきっちり狙う。しかも正面に打つのではなく、前にポトッと落としたり、前を警戒したら後ろや人と人の間を狙い、レシーブする選手は動いて取りに行かなければならない状況を強いられました。

 どのコースを狙えば崩れるか。しっかり研究し、徹底して実践する。その結果、日本の攻撃に対してもブロックはこのコースを締め、レシーバーはここに入れると狙い通り、きっちりと実践していました。それに日本が裏をかいて別の攻撃が決まったとしても、動じることなく「これは仕方ない」という割り切りができていました。

 残念ながら日本ではここまでの割り切りや徹底がなされていませんし、「なぜそこにいる?」と感じることがあるように、チームとしての意図も見えにくくなっています。コート内でプレーする選手同士だけでなく、外から見守る監督やデータを分析するコーチ陣が的確に指示を与え、もう少し守備範囲をはっきりさせるなど、チームとしての約束ごとをもっと明確にすることが必要なのではないでしょうか。

 強豪国はまずサーブでターゲットを狙い、攻撃枚数を減らしたうえで、ブロックやレシーバーをいるべき位置に配置する。男子バレーと同様の戦術を実践しています。高さやパワーといった体格差でも上回り、きっちりとした戦術を遂行してくる相手に対して、日本が個の力で戦っていては勝つことなどできません。

個の力ではなくチームで戦う

個の力ではなくチームで戦えば、米国でも勝機は十分にある 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 準々決勝の相手は米国。強豪ぞろいのグループを全勝で勝ち抜いて来た相手で、間違いなく力があり、勢いにも乗っています。

 普通にやれば厳しい相手です。でもだからこそ、個の力ではなくチームで戦う。この4年間、自分たちがやってきたことを信じて出し切るしかありません。

 とにかくサーブで攻めて、1枚でも2枚でも攻撃枚数を減らす。そして自チームが点を取るためには、最終予選のイタリア戦で見せたようなパフォーマンスで、木村選手が「全部自分に持って来い」というプレーで周りを引っ張る。

 何が起きるか分からない五輪だからこそ、ミスを恐れず、「当たって砕けろ」の精神を持ちながら、同時にやるべきことを徹底してやる。それをできれば、強豪国に対しても勝機は十分にあるはずです。

 頑張れ! ニッポン!

2/2ページ

著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント