意図を明確に、やることを徹底せよ 山本隆弘が女子バレーGLを総括

田中夕子

全日本女子のリオ五輪GLでの戦いを山本隆弘さんに総括してもらった 【写真:ロイター/アフロ】

 熱戦が続くリオデジャネイロ五輪でバレーボールはグループリーグが終了し、日本時間16日(以下同)からは決勝トーナメントが始まる。全日本女子は2勝3敗のグループAの4位という成績で決勝トーナメントに進出し、準々決勝ではグループBを1位で通過した米国と対戦する。

 ここまでの全日本の戦いを識者はどう見るのか。元全日本男子のエースで2008年の北京五輪に出場し、現在はバレーボール中継の解説などを務める山本隆弘さんに語ってもらった。

目的が分かりづらく“個”で戦っている

 苦しんだグループリーグ、本当の戦いはこれから始まります。金メダルを目指せるチームだからこそ、今回はあえて厳しくいきたいと思います。

 何が狙いで、どんなプレーがしたいのでしょうか。グループリーグ5戦の日本の戦いぶりを振り返ると、チームとしての目的が分かりづらく“個”で戦っている。そんな印象を受けました。

 5試合の中で最も重要なポイントであったはずの韓国との初戦からそうでした。第1セットはサーブが走っていましたが、どこを狙っているのかがやや不透明。この選手を潰したい、このエリアに打って崩したいというのは分かりますが、その選手へ向かって打つだけなので、ボールは正面に行ってしまう。レシーブする選手は足を動かすことなく、その場で受け、すぐ攻撃に参加できるため日本のサーブで「崩した」とは言えない状況が続きました。

 案の定、2セット目から韓国はミドルを使い始め、日本のブロックがミドルを警戒し始めたらエースのキム・ヨンギョンが決める。反対にサーブでは日本のウイングスパイカーの石井(優希)選手と木村(沙織)選手が狙われ、ウイングスパイカー同士を交代させなければならない状況に追い込まれた。そのため、日本は守備を重視して起用したはずのレシーバーも生かせなくなりました。すべてが後手後手になり、絶対に勝ちたかった初戦を落としてしまうことに。その影響は以降の試合にも、あまりよくない形で出ていたように見えました。

ミドルを増やし、勝負どころは木村に託す

山本さんは勝負どころでもっと木村に託すべきと指摘した 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 攻撃面に関して、まず気になるのはミドルの打数が少ないことです。

 レセプション(サーブレシーブ)が返らず、セッターがミドルを使いづらい状況にされているのもありますが、それにしても打数が少ない。相手のブロッカーが「ミドルはない」と踏んで真ん中をマークしてこない状況になっています。当然相手はサイドに対する警戒を強めますし、その状況で数本ミドルの選手に決められたとしても「勝敗を左右されるポイントではないから切り替えよう」と思われるだけで、ダメージを与えることができていません。

 そしてもう1つ、攻撃面で気になるのが木村選手の使い方です。

 相手チームは木村選手を潰そうとサーブで狙い、ブロックをそろえてくるので、木村選手に攻撃まで頼るのは負担だと考えるのかもしれません。ですが、20点以降の勝負どころなど、ここで木村選手が決めればチームは一気に乗るというところであえて裏をかき、迫田(さおり)選手やそれまでほとんど使わなかったミドルに上げるケースが多いため、木村選手が乗り切れないのです。

 日本が勝つためには木村選手の爆発力は絶対に必要です。大事な1点、勝負どころで少しでも負担を減らし、木村選手に勝負をさせるためには、前半、レセプションが返ったサイドアウト(相手サーブ時の得点)を取りやすい場面でオポジット(セッターの対角に入る選手)やミドルを使うこと。そうすることで、日本には多彩な攻撃があるんだというイメージを植え付けさせることです。そして「この1点は絶対に取らないといけない」という場面で木村選手に託す。それが徹底できれば、今ひとつ調子の上がらない木村選手を復調させることもできるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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