3000安打達成後にイチローが語ったこと 試合後会見での言葉をひも解く
3000安打を達成した試合後の会見で心境を語るイチロー(左) 【Getty Images】
日米の記者は速報を送るため、キーボードをたたき出す。先ほどまで聞こえていた雑談も消えた。
試合終了が近いため、マーリンズ、ロッキーズ両広報から、試合後の段取りが伝えられる。
「まず、(マーリンズのドン・)マッティングリー監督が会見をする。その後、アメリカメディア、日本メディアの順でイチローが対応する。会見場は、マーリンズのクラブハウスの前の廊下をさらに進んだ左側に、特設の会場が設けてある。場所が分からなかったら聞いてくれ……」
特設の会見場とは、なんでも普段は倉庫なのだという。ロッキーズの本拠地、クアーズ・フィールドには大きな会見場がないのか、それなりの人数を収容できるスペースを急きょ作ったそう。
それから少しして10対7、マーリンズの勝利で試合が終わる。
日米の記者は、慌ただしく階下の会見場に向かった。
「まず、試合のことを少し……」
会見場に入って来たマッティングリー監督は、そう切り出した後、簡単に試合を総括すると、すぐにイチローの記録に話題が移った。
監督は言う。
「われわれのフランチャイズにとって大きな記録だ。イチローは若い選手にすべきことを教えてくれている」
その後のやり取りはわずか2、3問。監督はあえて会見を短くすませると、主役に場を譲った。
遠い存在過ぎたイチロー
そこでは、ディー・ゴードンがこんな話をしてくれた。
「初めてイチローに会ったのは2004年。僕のお父さん(トム・ゴードン=当時ヤンキース)が、イチローとオールスターゲームで一緒のチームになったとき、挨拶する機会があったんだ。そのとき本当に良くしてくれた。あのとき僕は野球を始めたばかりで……。イチローを目標に? あの年にシーズン最多安打を放ったイチローのことなんて、遠い存在過ぎて目標になんかできなかったよ」
そのときゴードンは16歳。11年後の昨年、イチローとチームメートになる。
「まさか……ね」
話が終ったタイミングで電話が鳴った。米メディアの会見がそろそろ終る、という連絡だった。
慌てて会見場に向かったが、もう座るところがない。ざっと50席はあったはずだが、すべて埋まっている。仕方がなく会場の脇で立ち見。とはいえ、距離的にはイチローに一番近く、表情がつぶさにうかがえた。