快勝の智弁学園、連覇の呪縛から再起動 史上8校目の偉業へ甲子園ではリラックス

楊順行

不調の3番・太田に復活の一発

春夏連覇を狙う智弁学園の初戦の出雲戦、地方大会打率2割1分1厘と苦しんだ3番・太田が初回に先制の2ランを放った 【写真は共同】

「打たれたのは、チェンジアップ。低めで空振りを取りにいったのが高く浮いてしまったんですが、島根ではそれでもファウルを取れた。それを完璧にとらえられるんですから、相手打線が一枚も二枚も三枚も上でした」

 春夏通じて初出場の出雲高(島根)のエース・原暁はそう、舌を巻いた。

 センバツを制し、春夏連覇を狙う智弁学園高(奈良)との1回表だ。1死二塁で、3番・太田英毅が原の4球目を強振すると、打球はバックスクリーン左への特大2ランとなる。これで先制した智弁は、効果的に犠打も絡めて中押し、ダメ押しの13安打6得点。投げても、センバツ5試合を全完投した村上頌樹が5安打1失点。史上8校目の春夏連覇という偉業に向けて、好スタートを切った。

 智弁・小坂将商監督にとって、太田の復調は待ちに待ったものだった。センバツでも3番を打ち、19打数6安打で優勝に貢献したが、この夏の奈良大会成績は打率2割1分1厘(19打数4安打)と低迷。

「甲子園出場はうれしいでしょうが、太田本人は喜びも半分のはず。今日は”こんだけ打てへんかったから、打てるよ”と気楽に送り出したんです」(小坂監督)

負ける怖さに耐えてきた奈良大会

 春に優勝しているので、この夏はずっとプレッシャーを感じていました――とは太田だが、奈良県大会で苦しんだのはチーム自体も同じだった。センバツ後の近畿大会では、決勝で履正社高(大阪)に0対6と完敗。「あれで、“勝って当たり前”というプレッシャーからは一時解放された」(小坂監督)とは言うが、夏はどのチームも打倒・智弁に躍起になり、データなどもとことん分析してくる。

 たとえば磯城野高との3回戦は劣勢、敗退寸前の9回裏になんとか2点差を追いつき、延長11回で辛勝。延長になった郡山高との準決勝、天理高との決勝は、どちらもどうにか1点差でしのいだ。

 小坂監督は振り返る。

「7月18日から28日の大会期間中は、ずっとプレッシャーとの戦いでした。打線が機能せず、村上もいまひとつ。会う人会う人に『大丈夫か』『苦しいんちゃうか』と言われるし(笑)、途中ではセンバツ準優勝の高松商高(香川)が負けたりするのもイヤな感じで、ますます重圧は強まった。選手たちを叱咤しながら、負ける怖さに耐えてきた、という感じです」

 だが、四苦八苦しながら甲子園まではたどり着いた。負けられない、という呪縛から解放された以上は、リラックスして戦おうというのがチームの共通意識。不振だった太田に一発が出たのは、フリーズからうまく再起動したからだろう。

絶対エースは「落ち着いていた」

センバツ5試合をすべて完投したエース・村上。今夏の初戦も119球、1失点完投勝利を挙げた 【写真は共同】

「最高の舞台で、最高のチームと戦える。前半なんとか、ロースコアで行ければ」(植田悟監督)という出雲高も、早めに手を打った。3回途中に原から左腕・加藤雅彦にスイッチすると、智弁打線はチャンスになかなか1本が出ない。「春と違って、なかなかイニングが進まない」(小坂監督)というもどかしい展開だ。

 だが、4対1とリードした8回、「すごいな、お手上げという感じ」(出雲高・加藤)の中村晃、納大地の連続長打で決定的な2点を追加。終わってみればスキのない戦いぶりだった。

 センバツから6試合連続完投で、1年以来の夏のマウンドの感触に、村上は「今日は落ち着いてマウンドに上がれました。コーナーにしっかりと投げられていた」。要所では最速144キロのストレート、かと思うとチェンジアップで緩急をつける投球に、小坂監督も「今日は119球ですか? 代える気はなかったですよ。村上は、球数を投げれば投げるほど良くなるタイプですから」と絶対の信頼を置く。

 村上とバッテリーを組む岡沢智基主将は、こう言った。

「抽選会のときは村上に『初日だけは引くなよ』と言われていたけど、突破できて良かったです。優勝したセンバツも第1戦は初日、開幕試合だったので、ここから乗っていければ」

 春夏連覇まで、あと5つ――カウントダウンには気が早いか。だが第7日に対戦する鳴門高(徳島)とは、5月の練習試合で勝っているそうだ。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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