新天地・米国でサッカーを楽しむ川澄 年を重ねて出てきたハングリーな気持ち
所属チームでも押し寄せた世代交代の波
代表チームだけでなく、所属チームにおいても世代交代の波が一気に押し寄せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
「昨年あたりから以前と比べ、スタートで試合に出れなかったり、途中交代になることが多くなりました。ここ最近も自分自身が納得のいく形で試合に出場できていませんでした。それが今の自分の実力だと痛感しています。そんな中でSeattle Reign FCからオファーを受け、このタイミングなのも何かの縁だと思い、思い切って環境を変えてもう一度上を目指してチャレンジしようと思いました」(ブログから一部抜粋)
これまで川澄は、11年のワールドカップ・ドイツ大会で優勝を成し遂げるなど、黄金期を築き上げたなでしこジャパンの代表的な存在であり続けた。
しかし今年3月のリオ五輪アジア最終予選で五輪出場を逃したのを機に、日本代表の佐々木則夫監督が辞任。それに伴い、代表チームの世代交代の波が一気に押し寄せた。この9月に31歳を迎える川澄もいつの間にか“旧世代”の扱いを受けるようになった。それは彼女のブログにもあるように、代表チームばかりか所属チームでも世代交代を進める動きが起こっていたようだ。
川澄自身はこの流れを“今の自分の実力”と言い切っているが、果たしてそうなのだろうか? 健全な世代交代とは大抵の場合、新世代が実力で旧世代に匹敵するか、頭角を現し、両世代の今後の将来性を見比べた上で入れ替わっていくものだ。
だが、まだ実力が上回っているにもかかわらず、年齢だけで旧世代に追いやられてしまったとするならば、そちら側に回る選手の心情はいかがなものだろう。もちろんチームによって監督の考えやシステムの違いがあり、選手起用を決める要素はすべて世代交代によるものばかりではない。だが女子サッカー大国の米国プロリーグで現在も毎試合先発フル出場を続ける川澄が、常連だった代表から外れ、日本の所属チームでもここ最近は先発フル出場が当たり前ではなくなっていたわけだ。
「気持ち的な部分ではマイナス10歳になった感じ」
「気持ち的な部分ではマイナス10歳になった感じ」と川澄。年を重ねてハングリーな気持ちが出てきたという 【菊地慶剛】
「どんなにいい選手、監督がいても、それをオーガナイズしてピッチで90分間やり切らないと楽しくない。このチームはそれができるチームだと思いますし、そういうチームでしっかり出場し続けて結果を出して、チームの勝利に貢献したいという思いがすごく強いです。それを意識してこれからもやり続けたいです」
やる気ばかりではなく、この年齢になってもサッカーの飽くなき向上心もますます盛んだ。
「このチームは攻撃の良さを出して勝ちにいくチーム。(米国のサッカーは)やることが本当にはっきりしている。日本にもこういうチームはありますが、こっちの場合はそのパワーとスピードが桁違いなので。そういうところでしっかりやり切って、分かっていても止められないのじゃなくて、分かっていたら止められるというところまでステップアップしていかないといけないなと思います」
もちろん周囲がどう思おうが、川澄自身が旧世代に回るつもりはないし、まだまだ代表復帰も視野に入れている。
「日の丸については自分も意識しながらやっていますけれど、そればかりは監督が決めることですから。ただ年齢的なことで言うと、この年になって気持ち的な部分ではマイナス10歳になった感じがするので、自分の中ではすごく新鮮でしたし、年を重ねてこうしたハングリーな気持ちが出てくるんだとあらためて感じているところです。だからこそ、その辺をどんどん(ピッチで)表現していきたいと思います。
とにかく今はプレーオフに行けるか行けないかのボーダーラインなので、このチームで何とかプレーオフに行きたいです。2年前は悔しい決勝戦というのもあるので、できれば1位で通過して完全優勝を狙いたいというのもありますけれど、現実的なポイントを考えるとそれはお預けで、今年はまず4位以内に入ってプレーオフに行きたいです」
シアトルは五輪終了後の8月27日から公式戦を再開する。公式戦の残り試合は5。新たな環境に飛び込み心技体ともに充実度を増し、サッカーを楽しんでいる川澄が、ピッチ上でどのようなパフォーマンスを見せるのか、最後まで注目していきたいところだ。