バスケ代表躍進の鍵を握る渡嘉敷来夢  不調をはねのけ、本来の力を示せるか

菊地慶剛

立場を大きく変えたブレアナ・スチュワートの存在

米国代表にも選出されているブレアナ・スチュワート。今シーズンの渡嘉敷の立場を大きく変えた選手だ 【Getty Images】

 今シーズンの渡嘉敷の立場を大きく変えたのが、オフのドラフトで全体1位指名で新加入したブレアナ・スチュワート選手の存在だった。名門コネチカット大学在学中、チームを4年連続全米王者に導いたスター選手で、最年少で金メダル最有力候補の米国代表にも選出されている逸材だ。

 このスチュワートのポジションが渡嘉敷と同じパワー・フォワード(PF)なのだ。チームは開幕からスチュワート中心の戦術をとっており、彼女の平均出場時間は35.2分(ちなみに試合時間は40分)とチーム1位。これでは渡嘉敷の出場時間が減ってしまうのは仕方がないともいえる。

 スチュワートの加入で渡嘉敷以上に影響を受けたのが、昨シーズンまで渡嘉敷と併用されていたアビー・ビショップ選手だ。彼女も五輪でオーストラリア代表に選ばれている選手でありながら、1カ月間の五輪休暇に入る前までの24試合でわずか9試合しか出場機会がなかったのだ。ビショップに比べればまだ渡嘉敷の方が優遇されているのだが……。

「監督にどう思われようが、自分が何を思おうが、同じ1日を過ごすのならポジティブにいくしかない。自分が誰のためにバスケットをやっているんだと言われた時に、自分のためでもあるし、日本代表のためにやっていきたいと思っているので。自主練習であったり、こういう試合に出られない経験が自分にとってプラスになると思います。ここからモチベーションを上げていくしかないですね」

初めて経験した逆境をはねのけられるか

胸の内にある欲求不満を爆発力に変え、五輪の舞台で発散できるか 【写真:アフロスポーツ】

 当然のことだが、現状にいじけているだけでは何も生まれない。五輪で渡嘉敷の活躍を必要としている日本代表が待っているのだ。それをエースとして自覚しているからこそ、逆境に屈しない精神力は失っていない。だからこそ、渡嘉敷は胸の内にある欲求不満を爆発力に変え、五輪の舞台で一気に発散させようとしているのだ。

 ただ、気になるのは体力面だろう。これまで10分程度しか出場していなかったが、日本代表では、ほぼフルでの出場が求められる。

 「それは自分のやってきたトレーニングであったり、これからの2週間でどれだけコンディショニングを上げられるかだと思います。五輪に入ってから徐々に調子を上げていくという言い方はダメだとは思いますけれど、1試合1試合こなしていくごとに、チームはどんどん良くなると思う。その中で(自分もチームに)合わせていけたらと思います。やってみないと分からないですが、特に不安はないです」

 日本代表の初戦は8月6日(現地時間)のベラルーシ戦。渡嘉敷の活躍なくして、日本代表の躍進は不可能だ。彼女が初めて経験した逆境をはねのけ、現在の怒りにも近い感情をパフォーマンスにうまく生かせるようになった時、渡嘉敷は日本代表のエースとして更なる高みに到達するはずだ。そしてそれは、五輪後に再開されるWNBAでの巻き返しへとつながっていくことだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント