バスケ代表躍進の鍵を握る渡嘉敷来夢  不調をはねのけ、本来の力を示せるか

菊地慶剛

合宿前に発した辛らつな言葉

日本女子代表の絶対的エース渡嘉敷来夢は、現在所属するWNBAシアトル・ストームで苦境に立たされている 【写真:アフロスポーツ】

「本当に試合には一番飢えていると思うので、そういった部分で、その勢いとかエネルギーがチームにとってプラスになると自分は信じています」

 12年ぶりに五輪出場を決めたバスケ女子日本代表の絶対的エースである渡嘉敷来夢選手はこう言い残して7月18日、彼女が所属するWNBAシアトル・ストームを離れ、代表チームが合宿を行っているアルゼンチンへと飛び立っていった。

 これだけ聞くと、渡嘉敷がまずまずの状態で代表に合流したようにも受け取れるかもしれない。しかし実際はそうではない。冒頭の発言は、実は以下のような言葉から始まっていたのだ。

「プレー面に関してはこっちでクソみたいなものなので……。何か(代表に)プラスになる部分があるかと言われればそういうのはないです」

 昨年初めて世界最高峰リーグWNBAに挑戦し、渡嘉敷は堂々オールルーキーチームの5人に選ばれる活躍を見せた。シーズン途中にはリオデジャネイロ五輪のアジア地区予選にも出場し、大会MVPに輝くなど五輪出場の原動力にもなった。193センチという長身にも関わらず身体能力、運動量もずば抜けており、まさに高校時代から「100年に1人の逸材」との評判通りの活躍を続けてきた。

 そんな渡嘉敷本人の辛らつな言葉からも理解できるように、WNBA2年目でまさに人生で初めてと言っていい苦境に立たされていた。もちろん彼女が代表に合流するまでに思い描いていた青写真とは、まるで正反対のものになってしまっていたのだ。

あらゆる数字が昨季を下回った今シーズン

昨シーズンの成績を上回ることを目指して迎えた今シーズンだったが…… 【Getty Images】

 オフにストームと新たに3年契約を結んだ渡嘉敷は、4月24日にトレーニングキャンプ初日を迎え、まさに五輪イヤーに向けて壮大な決意を胸に海を渡ってきていた。

「そう(今年が五輪イヤー)じゃなかったら今年こっちに来ていないです。自分がこっちに来ているのは、日本でなかなかできないことをこのリーグでできると思っているからです。チームと一緒に海外遠征をしたりして、日本代表としてレベルアップすることも大事だと思いますが、個々の能力のレベルアップというのも日本代表には大事だと思います。

 そういった部分で、昨年の五輪出場を決めた試合でも、中国の高さや強さだったり、スピードなどもあまり気にならなかったので、今年もこっちでプレーしてから五輪に行きたいと思っていたら、ストームから声をかけてもらえたので喜んで来ました」

 つまり渡嘉敷にとってWNBA再挑戦は、自分自身をレベルアップさせることで五輪での日本代表の活躍につなげることが真の目的だったわけだ。だがそのもくろみは残念ながら成功しなかった。

 昨シーズンの成績を最低レベルに設定し、それを少しでも上回ることを目指して迎えたシーズン開幕。しかし、彼女の起用法は昨年と明らかに違っていた。昨シーズンの平均出場時間は20.6分に対し、今シーズンは11.6分とほぼ半減。それに合わせるように、得点(8.2→4.3)、リバウンド(3.3→1.8)、ブロックショット(0.9→0.0)と、スティール(0.2→0.3)以外のあらゆる数字が昨シーズンを下回っている。

 しかも日本代表に合流直前の7月17日のシカゴ・スカイ戦では、ベンチに座ったまま今シーズン初めての出場なしで終わってしまった。前述の「プレー面に関してはこっちでクソみたいなものなので……」という強烈な言葉を口にした渡嘉敷の心境が分かってもらえるだろう。

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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