イチローの一打は「ややこしい打球」 好守に阻まれシカゴで偉業達成ならず

丹羽政善

7回に代打で登場したイチローはショートライナーに終わった。シカゴでは安打が出ず、3000安打は次のロッキーズ戦以降に持ち越しとなった 【Getty Images】

 カブスの本拠地リグレー・フィールドの周辺には高い建物が少ないので結構遠くまで見渡せ、ミシガン湖も望める。

 3日連続の快晴。この時期としては珍しく好天が続き、3日(現地時間)の朝は空気も澄んでなかなかの眺望だったが、午前11時にカブスvs.マーリンズのスタメンが発表されると、どこか街並が曇りがかって見えた。

 イチローは5試合連続でスタメンを外れ、その時点で、この試合での3000安打達成は難しくなった。

 案の定、この日も代打の1打席のみ。1打席で2安打は、到底無理である。

 その唯一の打席は、7回にマーリンズが勝ち越し、なおも1死一塁の場面で訪れた。

 マウンドには、イチローがメジャーに移籍以来、もっとも対戦しているジョン・ラッキー。互いに手の内を知る仲だが、イチローは初球ファウルの後の2球目を打って、ショートへの小フライに倒れている。

複雑な状況判断を求めた打球

 ただ、最後はショートのハビエル・バエスがダイビングするほど。状況判断も含めて難しい打球になった。

 バエスが振り返る。

「サードのクリス・ブライアントが視界に入ったから、まずは、彼が捕る可能性を考えた」

 確かに、ブライアントが右に動いた。ダイレクトで捕るのか? 仮にブライアントが見送れば、バエスには、ワンバウンドにしてダブルプレーを狙う選択肢があった。

「ただ、併殺は無理だと思った」とバエスは言う。

「打者走者はイチローだし」

 では、次の選択肢は?

「二塁で確実に(アデイニー・)ヘチャバリアをアウトにすること」

 しかし、それも……?

「そう。彼もスピードがあるから、二塁でアウトにできる保証はない」
 
 そして、あの緩い打球ならイチローを一塁でアウトにすることも「できないだろうな」。

 となると?

「確実にアウトを一つ取る必要がある。そう考えると、ブライアントが止まるのが見えたから、僕が直接、捕るしかなかった」

 あのダイビングキャッチには、そういうギリギリの判断があった。

「ややこしい打球だったよ」

 そうしてイチローのシカゴでの最終打席は終わりを告げた。

 試合は、その時点で2点をリードしていたものの、9回に3点を奪われると、マーリンズはサヨナラ負けを喫し3連敗となった。
 
 この日はクリスチャン・イエリッチが本塁打と二塁打を放つなど活躍したが、救援陣がリードを保てなかった。

マイアミで記録達成の可能性も?

 ただ、やはり客観的に考えた場合、この日のスタメン出場はなかった。

 まず、連敗していたこと。マッティングリー監督には、イチローの記録に配慮する余裕はなかった。

 そして前日、ジャンカルロ・スタントンが2安打していた。スタントンの場合、ヒットが出ている限り、監督は起用し続ける傾向がある。前日の2本目のヒットが大きかった。

 しかし、こういう可能性があった――。

 この日の試合前、イエリッチが前日の主審の判定にこう不満を漏らしている。

「だって、キャッチャーがミットを動かしているからね。ひどいよ……」

 この日、前日の主審は三塁塁審を務めた。となると、左打者がハーフスイングをしたとき、主審は三塁塁審に最終判断を求める。イエリッチがバットを止めても、前日の遺恨から、スイングをとられる可能性がある――。
 
「まあ初回にそういうことがあって、僕が抗議すれば確実に退場になるから、その場合は……」

 イチローの出番というわけである。

 ただもちろん、そうそう、そういうことがあるわけではない。実際、イエリッチは初回の打席でタイムリー二塁打を放っている。

 いずれにしても記録はコロラド州デンバーに持ち越された。

 チームは明日(4日)、21日ぶりに休み。5日からロッキーズと3連戦を行い、8日にホームに戻る。ここまで来ると、ロッキーズ戦でもスタメン出場がなければ、本拠地マイアミで記録達成という可能性も現実的となった。
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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