鍵は韓国戦、日本はサーブで攻めろ! 大山加奈が語る女子バレーの見どころ

田中夕子

ミドルからの攻撃を増やすべし

さまざまな位置から攻撃を展開するために、日本はミドルからの攻撃を増やす必要がある 【坂本清】

 もちろん課題もあります。中でも最も大きな課題がミドルブロッカーやバックセンターからのバックアタックを含めたミドルからの攻撃本数の少なさです。

 14年のワールドグランプリや世界選手権、15年のW杯など、これまでの国際大会ではミドルからの攻撃力強化を目的に、さまざまな戦術を試みてきました。韓国やロシア、ブラジルといった予選リーグで対戦するチームだけでなく、米国や中国、セルビア、オランダ、イタリアといったメダルを獲得するために打破しなければならない強豪国は、すべて、日本よりも高さやパワーで勝るチームばかりです。

 そんな相手に対して、日本がどうやって攻撃し、得点をするか。1カ所からの攻撃に偏るのではなく、前衛も後衛も含め、さまざまな位置から同時に攻撃をするシンクロ攻撃を仕掛けなければならないのですが、OQTではそれが「なかなか見られませんでした。まず五輪出場権を手にすることが最大の目的であるOQTでは、戦いやすい形で勝負することを選択するのは間違っていません。とはいえ、五輪でメダルを取るためにはもっとさまざまな位置から攻撃を展開することは絶対条件です。そのためにまずはミドルの攻撃を増やすこと。これは大きなポイントになるはずです。

 セッターの宮下選手、田代佳奈美選手は2人ともリオ五輪が初めての五輪で、特にOQTの前から代表へ復帰した荒木絵里香選手とはコンビを合わせる時間も少なく、試合でトスを上げるのは不安があるのかもしれません。ですが、荒木選手や島村春世選手はセンターからの高いトスも打てる、攻撃に幅がある選手で、山口舞選手と宮下選手は所属チーム(岡山シーガルズ)で長くコンビを組んでいます。

 サイドにも攻撃力の高い選手がそろっているので、ミドルがもう少し機能すれば本当に良い形ができるはず。勇気を持って、スパイカーを信じてトスを上げればきっと決めてくれるはずです。若いセッターがOQTを経験したことは本当に大きな自信になったはずなので、初めての五輪でも思い切りプレーしてほしいですね。

心強い、五輪経験者の存在

チームの精神的支柱として活躍が期待される木村(左)と荒木 【坂本清】

 ロンドン五輪に比べて、リオ五輪は木村選手、荒木選手、山口選手、迫田さおり選手と五輪経験者が4名しかいない若いチームです。

 私も初めての五輪を思い返すと、ただ空気に飲まれて終わった、何もできなかった記憶しかありません。初戦のブラジル戦、1本目のサーブを竹下(佳江)さんがネットにかけた瞬間、「テンさん(竹下)でもミスをする場所なんだ」と思ってしまって、正直そこからの記憶がありません。体がフワフワして、チーム全体も浮き足立っていました。

 当時は2大会ぶりの五輪ということもあり、経験者は吉原(知子)さんと成田(郁久美)さん、たった2人しかいなかった。今回も初出場の選手が多いですが、経験者が4人いるのは、それだけで心強いのではないでしょうか。

 そんなチームの中心は、やはりキャプテンの木村選手です。小指の状態が心配されていますが、木村選手ならきっと、たとえけがをしていたとしてもやる時はやる選手なので大丈夫。心配ありません。キャプテンになってから本当に苦しんできたので、その分、五輪を楽しむことは難しいかもしれません。ですが、4回目の五輪を楽しんで、悔いなく帰ってきてほしいですね。

 木村選手を支えるベテラン、荒木選手もお母さんになって初めての五輪です。チームスケジュールが優先される中で、小さな娘さんがいる荒木選手がここまで戻ってくるのは本当に大変なことだったと思います。ブロックの要、木村選手を支えるチームの精神的支柱として頑張ってほしい。私も同級生として応援しています。

 そして、4年前のロンドン五輪直前にメンバーから外れた座安琴希選手も代表に選ばれました。リベロかレシーバーか、起用方法はまだ分かりませんが、アップゾーンでの彼女の姿や振る舞いを見ているだけで、コートに入る選手を「頑張らなければ」と思わせてくれる選手です。けがもある中、強い思いを持ってやってきたこの4年間の分を、すべてをぶつけてほしいですね。

ロンドンより厳しい戦いになる

大山加奈さんは自身の経験から、応援が大きな力になると語った 【スポーツナビ】

 メダルの可能性を現時点で客観的に考えれば、正直、ロンドンより厳しい戦いが予想されます。それでも眞鍋政義監督が「化学変化を起こしたい」と言い続けてきたように、何かのきっかけを得られれば、一気に勝ち上れる可能性も十分にあります。

 そのためにも、まずはとにかくサーブで主導権を握ること。そしてシンクロ攻撃を展開すること。強いチームばかりですが、日本のサーブが機能し、ブロックでプレッシャーをかけ、ディグでつないでいろいろな場所から攻撃が展開できれば、十分に勝機はある。まずは思い切ったサーブで攻め続けてほしいですね。

 試合時間が朝だったり、夜だったりとコンディションを維持するのも難しいと思いますが、私が出場したアテネ五輪の頃とは違い、今はハイパフォーマンスセンターという選手をサポートしてくれる拠点があります。アテネではおにぎりが支給されましたが、選手村での食事があまりおいしくなかったので、木村選手と選手村のマクドナルドでサラダばかり食べていました(笑)。今は食事もしっかり献立が組まれていますし、炭酸泉もある。サポート体制も万全です。

 それでも苦しい時、選手にとって大きな力になるのは応援です。リオで直接声援を送るのは難しいと思いますが、一緒に喜んで、一緒に悔しがってもらえることが一番うれしい。1本1本、1点1点、同じ気持ちで選手とともに戦って下さい。出場できなかった男子の分と、ビーチバレーボールの分の思いを込めて、私も精いっぱい応援します。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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