五輪代表が直前合宿で得た3つの成果 調整とOAの融合、そして危機感

飯尾篤史

久保裕也の招集を断念、鈴木武蔵を登録

本大会に向け、ブラジルで直前合宿を行った日本代表 【Getty Images】

 7月22日(現地時間、以下同)のブラジル入りから、30日のブラジル戦での完敗(0−2)も含め、おおむね順調に調整を進めてきたリオデジャネイロ五輪サッカー日本代表にとっての最大の懸案事項――。それが久保裕也の招集問題だった。

 所属するスイスのヤングボーイズが突然、公式ホームページにて派遣拒否を発表したのが26日のこと。それを受け、霜田正浩ナショナルチームダイレクター(ND)が27日にブラジルからスイスに飛んで同クラブのGMと交渉。一方的にリリースされた招集拒否を差し戻すところまで漕ぎ着けた。

 ただし、それで招集が認められたわけではなかった。あくまでも「久保招集の可能性がゼロではなくなった」(霜田ND)だけ。けが人が続出したというヤングボーイズのチーム状況を考慮し31日になんらかの結論――派遣の可否や派遣する場合の条件――を出してもらうという約束を取り付けたにすぎなかった。

 しかし、31日に出るはずの結論は8月1日に先延ばしにされ、1日朝に届いた連絡も「まだ結論が出ていない」という状況。もう1日待ったが、2日になって届いた連絡は「3日の試合(チャンピオンズリーグ予備戦)が終わるまでは確約はできない」というもの。このままでは代わりの選手を登録できなくなるため、日本サッカー協会は久保の招集を断念。1日に到着したバックアップメンバーの鈴木武蔵を大会メンバーに繰り上げることを決めた。

 手倉森誠監督は「裕也の気持ちを考えると無念だろうと思う」と久保を気遣ったうえで、「残念がってばかりもいられない。(バックアップメンバーを含め)22人が決まったからやっていこう、という話を選手たちにした」と臨戦態勢に入ることを宣言した。

テーマはコンディション調整とOAの融合

合宿のテーマはコンディション調整とOAの融合。OAの塩谷(中央)は積極的にコミュニケーションを取る 【Getty Images】

 代表チームがグループリーグ初戦、ナイジェリアとの決戦の地、マナウスに入ったのはブラジル戦の直後、7月30日深夜のことだった。翌31日は全日オフにして心身ともにリフレッシュ。1日からトレーニングを再開し、ナイジェリア戦に向けた戦術の最終確認に入っている。

 では、それ以前はどうだったのか。アラカジュでの直前合宿が始まった22日からゴイアニアでブラジルと戦う前日までの8日間は、チームを取り巻く雰囲気は比較的リラックしたものだった。コンディション調整とオーバーエイジ(OA)の融合――それが、この時期のテーマだった。

 アラカジュでは2部練習を2度敢行して体に負荷をかけ、2〜3日に一回唾液の検査を行い、一人一人の疲労度を把握。コンディショニングに役立てた。

「コンディショニングは順調に進んでいる」と指揮官は胸を張ったが、その背景には、アジア最終予選での成功体験がある。コンディショニングに対してスタッフは自信を持って取り組み、選手たちもそれに絶大な信頼を置いている。

 一方、OAの融合は、単にチームに溶け込ませるだけでなく、既存の選手も含め、「戦術・約束ごとの確認」という意味もある。

「俺たちは決して強いチームではないと念頭に置かないといけないし、何をしに来たのかと言ったら、やっぱり驚かせに来た、くらいの謙虚な気持ちがなきゃいけない」

 手倉森監督がそう語ったように、アジア最終予選ですら守勢に回ることが多かったわけだから、世界と戦えば、それ以上に押し込まれることが予想される。そうした展開になったとしても、粘り強く守り、スピーディーな攻撃で隙を突いて仕留める――それが、指揮官の思い描く五輪での戦い方だ。「耐えて勝つ」とも監督は言う。

攻撃のキーマンは興梠慎三

1トップに入る興梠(右)。スピーディーな攻撃のキーマンだ 【Getty Images】

 そうしたスピーディーな攻撃のキーマンにOAの興梠慎三が指名されたのは、24日から始まった戦術練習だった。

 4−2−3−1の1トップに興梠が、2列目には浅野拓磨、中島翔哉、南野拓実、矢島慎也らが起用され、興梠とのコンビネーションから2列目が飛び出していく形が確認された。練習後、その狙いについて指揮官はこう話した。

「全員で守る意識と、取ったあとに誰が出て行くんだというところをはっきりさせた。(興梠は)やっぱりターゲットに成り得る。(遠藤)航とのホットラインもあるし、くさびだけでなく、ダイレクトプレー、一気に裏を突く動き、このチームが意識してきたことの質を上げてくれる」

 もっとも、興味深かったのは、翌日以降のトレーニングだ。興梠にサイドに流れるように促したり、ディフェンスラインからロングボールをあえて蹴らせるようなトレーニングを取り入れるのだ。狙いは、スピーディーな攻撃一辺倒にならないこと、あるいは、スピーディーな攻撃をより効果的にすることにあった。「裏を狙うからこそ足元が効いてくる。その優先順位を理解してもらいたい」と説明した手倉森監督は、「この大会ではカウンターが効きそうな気配があるけれど、それ一辺倒にならないように幅をもたしたサッカーもやらないと、ただ消耗するだけになってしまう」とも語った。

 ポストワークに長けた興梠と、2列目のアタッカーたちを掛け合わせることで生まれるスピーディーな攻撃と、ロングボールで裏を狙ったり、幅を使って揺さぶるような攻撃のバランスは、その後も攻撃面でのポイントになっていく。

 一方、守備面はどうか。ディフェンスラインに入ったOAの塩谷司、藤春廣輝に対し、「ブロックの守備と前から行くときと、どういうタイミングでやるんだということと、隣同士の距離感について」のレクチャーが行われた。

 なかでも手倉森監督が気にかけていたのが、ディフェンスラインの選手間の距離だ。「横がコンパクトになりすぎている。そこは少し是正しなきゃいけない」と指摘すれば、藤春も「ガンバ(大阪)ではサイドバックが中に絞ってセンターバック(CB)をカバーできるポジションを取るけれど、ここではあまり絞らない。人がいなかったら絞らずに外をしっかり、と言われました」と、所属クラブとの違いを認識。普段は3バックの一角としてプレーする塩谷も、CBでコンビを組む植田直通と練習中に頻繁に確認しあう姿が見られた。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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