女子ラグビーで異彩を放つ「転向組」 金メダルへ「奇跡を起こし続けないと」

斉藤健仁

円盤投げから転向した桑井

円盤投げから転向して五輪代表となった桑井 【斉藤健仁】

 続いて桑井。身長171センチ、がっしりとした体格を見てイメージされる通り、もともとは円盤投げの選手だった。北海道・幕別町出身の桑井は、小学校から陸上を始め、冬にはスピードスケートやアイスホッケーもプレー。もともとは幅跳びの選手で、高校時代にケガの影響で円盤投げを始めて、全国5位に入賞し、中京大に進学。「アジアの鉄人」室伏重信氏にも指導を受けたものの、投てきでは大成することはかなわなかった。

 ちょうど4年前の2012年4月、大学時代の授業を通じて知ったラグビーに転向。ロンドン五輪をTVで見ていた時は、まだラグビーを始めたばかりだった。ただ陸上で鍛えたパワーとバネで、すぐに頭角を現し、同年8月には日本代表合宿に初招集。FWとしてプレーする桑井は「パワーはもちろんすぐに通用しました。スクラムやラインアウトのリフトはすぐにできましたね」と振り返る。

桑井「チャレンジして良かった」

「エディー・ジャパンより厳しい」と言われるトレーニングが続いても、明るく前向きに取り組んできた 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 転向してすぐのころは、長年ラグビーをやっていた選手に対して引け目があり、「いろいろな面で追いつかないといけないと思っていた」という。ただ、今では「他競技からの転向組の方が泥臭いプレーができると思うし、ラグビーの経験値が少ない分、走り回って、得意なパワープレーで前に出て行くという姿を見せていきたい」と、サクラセブンズが世界と戦う上では欠かせない存在へと成長した。

 もちろん、桑井にとって陸上をしていたころから五輪は「憧れの舞台」で、7月は地元・北海道で合宿していたこともあり、「注目度は高かったです。改めて五輪のすごさを感じました。五輪代表に選ばれてホッとしています」。4年前にラグビーに転向する決断をしたことが、リオへの道を切り開いた。「(競技を変えたことは)全然、間違っていなかった。チャレンジして良かった。今できることを準備して、五輪の舞台でトライにこだわりたい!」

バレーボール、サッカーから転向した選手も

スクラムを組む桑井(右)。セブンズではスクラムは3人で組む 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 五輪のバックアップメンバーに選ばれた竹内亜弥も大学時代までバレーボールをしていた「転向組」、また転向から2年で五輪メンバー入り寸前までいった中丸彩衣は、もともとバスケットボール選手で、常葉学園高校3年時にはインターハイも出場。ほかにもなでしこリーグに所属する吉備国際大学でサッカーをやっていた小笹知美や、昨年3月まで秋田銀行の女子バスケットボール部に在籍していた北山愛梨らは日本スポーツ振興センターによる「ナショナルタレント発掘・育成プロジェクト」や「トライアウト」でラグビーに転向している。

 ただ、昨年から女子7人制の国内大会である「太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ」が開かれるようになったこともあり、女子のレベルは急速に上がっている。それでも、100m×70mのグランドを7人でカバーするという競技の性質上、速い、強い、身長が高いなど個々の選手の能力、ポテンシャルがものを言うことは間違いない。まだ日本の女子の競技人口は3000人ほどだという。
 桑井が「良い競争ができていることはありがたい」と言えば、竹内も「どんどん他競技からラグビーに転向してくれることで、日本が強くなる」と歓迎する。もしかしたら、今回の五輪を見てラグビーに転向した選手が、桑井よろしく、4年後の2020年の東京五輪に立っているかもしれない。

金メダルへ「全員が信じて、目標に向かう」

ラグビー経験者、転向組が一体となって金メダルを狙う 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 ラグビー歴に関係なく、「同じ舞台に立ってしまえば一緒」(桑井)である。2人がそれぞれの競技で培ってきた経験やスキルは、きっと五輪という最高の舞台でも彼女たちを支えることになろう。「落ちたメンバーの分の思いも込めてビッグパフォーマンスをしたい」という桑井は持ち前のパワーで、「アニキ」こと中村主将は気迫でチームを鼓舞し、サクラセブンズを引っ張っていく。

「いつもと同じように」と平常心を強調していた中村主将は、最後にこう締めくくった。「実績がない中で、五輪の目標は金メダルと言い続けてきた。そのためには奇跡を起こし続けないといけない。(昨年、男子15人制のワールドカップで結果を残した)エディー・ジャパンより走ってきた自負はある。サクラセブンズは信じることだけで前に進んできたチームです。メンバーしか信じていないかもしれないけど、全員が信じて、目標に向かって貫いていきたい」

 女子ラグビーは8月6日深夜に始まる。サクラセブンズは予選プール戦でカナダ、イギリス、ブラジルと同組になった。どのチームも決して易しい相手ではない。7つの満開の桜が描かれた新ジャージーを着て、チーム一丸となり、リオの舞台で大きな花を咲かせることができるか。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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