ニッチロー’の前でイチロー音なし スタメン出場の機会はいつ?

丹羽政善

現地24日のメッツ戦、7回に代打で出場するも空振りに倒れたイチロー 【写真は共同】

 あれは2011年の夏だったので、ちょうど5年前のことになる。

 日本を出国するときからマリナーズのユニホームに身を包み、家を出たときからイチローになりきってマリナーズの本拠地セーフコ・フィールドを訪れていたニッチロー’(当時の芸名は「’」が付かず「ニッチロー」だった)が、一塁側内野席の最前列で試合を観戦していた。

 あるとき、目の前に打球が飛んで来た。ニッチロー’はそれを、身を乗り出して捕っている。大リーグではよくある光景だ。フェンス際にボールが飛ぶと、みんな一斉にグローブを差し出す。

 が、しかし、それはファウルボールに限っての話。ニッチロー’が捕った打球は、なんとフェアボールだった。彼は試合を止めてしまったのである。

ニッチロー’と警備員のやりとりを通訳

 やがて、彼の元に警備員がやって来た。2〜3人、いや4〜5人はいただろうか。

 その様子が記者席から見えたので、ニッチロー’が警備員に前後を固められて向かった方へ行ってみると、客席を上がったコンコースで警備員に囲まれていた。

 ニッチロー’は困惑した表情を見せている。警備員も思案顔。どうやら、英語が通じないらしい。彼らの輪の近くまで歩み寄ると、警備員の1人が、「英語を話せますか」と聞いてくる。うなずくと、「通訳してもらえますか」と言った。

 まず、こんなことを言われた。

「大リーグでは、ああいう形で試合を止めると退場となります。そちらのゲートから外に出てもらいます」

 それをニッチロー’に伝えようとすると、警備員がすぐさま、「ちょっと待ってくれ」と会話を遮った。トランシーバーを耳にあて、相手の声を注意深く聞き取ろうとしている。「了解しました」と言ってこちら側を振り返ると、今度はこう言った。
 
「マリナーズのチャック・アームストロング社長(当時)から、大目に見てやれ、との指示です。退場処分にはなりません。客席に戻っても構いませんが、二度とフェアボールを捕ったりしないでください」

 ニッチロー’はその後、安心した表情で席へ戻って行ったわけだが、試合後にエレベーターでアームストロング社長と一緒になった。ことの顛末を聞くと、「あれは、女房が……」と言って、続けた。

「わざとじゃないんだから、許してあげなさいよって言うから」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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