井岡一翔、KO勝利で統一戦に前進 “次期最強候補”との戦いで真価証明へ

船橋真二郎

大みそかの大一番へ機運高まる

WBA世界フライ級チャンピオン・井岡一翔は3階級目3度目の防衛戦をKO勝利で飾った 【写真は共同】

 ボクシングのWBA世界フライ級チャンピオン・井岡一翔(井岡)は20日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)第1競技場で同級6位の挑戦者キービン・ララ(ニカラグア)を11ラウンド1分11秒KOに下し、3階級目の王座で3度目の防衛に成功した。

 WBAは試合直前となる17日、公式ホームページ上でWBA世界フライ級スーパー&WBO世界フライ級の統一チャンピオン、ファン・フランシスコ・エストラーダ(35戦33勝2敗 24KO勝ち/メキシコ)と井岡に対し、井岡防衛を前提に対戦指令を出したと発表していた。

 試合後、井岡一法・井岡ジム会長は「WBAから指令が出ている以上、うちは避ける気はない」と明言。エストラーダ陣営と交渉のテーブルにつき、恒例の大みそか、日本開催を目指す方針を示した。父の言葉に「望むところです」と力強く応じた井岡も「エストラーダ選手は同じ団体のスーパーチャンピオンでもある。みなさんの期待にも応えたいし、僕自身、証明したい」と大一番の機運が高まったことを歓迎した。

挑戦者ララに“ロマゴン”のスタイル

前半は手数で上回るララが優勢に見えたが、井岡は冷静に対処していた 【写真は共同】

 統一戦を見据え、「通過点」と位置づけた防衛戦だった。世界初挑戦、21歳のララがデビューしたのは2013年1月。すでに井岡が八重樫東(大橋)との激闘を制してミニマム級のWBA、WBCのベルトを統一し、さらにWBAライトフライ級王座を獲得して、2階級制覇を果たした頃である。キャリアの違う相手に「チャンピオンの強さを見せる」と27歳の3階級制覇王者は意気込んでいた。

 先に仕掛けたのはララだった。上体を振りながら、グイグイ距離をつぶし、左右のアッパー、フックを次から次とつないでいく。
「パンチも伸びてきたし、教科書にないパンチというか、いろんな角度から、まだコンビネーション続くんか? というくらいに打ってきた」

 ただ、手数を繰り出してくるだけではない。「僕が打っていくタイミングに頭からパンチで踏み込んできた」と向き合った井岡はやりづらさを感じており、「ライトフライ級の3度目の防衛戦のときのフェリックス・アルバラード選手を思い出した」と同じニカラグア人挑戦者の名前を挙げた。

 ララは日本でもおなじみの“ニカラグアの英雄”、ロマゴンことローマン・ゴンサレスと同じプロモーションに所属し、いわば同門。井岡挑戦に向けてもスパーリングで胸を借りてきた。パウンド・フォー・パウンド(階級同一時)最強と評価されるロマゴンとは比べるべくもないが、コンビネーションをつないで攻めていくさまには影響が垣間見えた。

卓越したディフェンス技術で相手が空回り

スタミナが落ちた挑戦者に対し、井岡はボディを効果的に利かせて追い詰めた 【写真は共同】

 距離感覚に優れる井岡は、ロングレンジを保ちながら展開をつくるのが本来のスタイル。だが、そのスタイルにとらわれ過ぎず、対峙したそのときの感覚で戦い方を判断する柔軟性も持ちあわせる。ララに対し、井岡が選択したのはアルバラード戦のときと同じく、「前で打ち合って、止める」。前への勢いを見せてくる相手にスペースを与えず、踏みとどまった。

 特筆すべきは相手のパンチが飛び交う危険領域に身を置きながら、ほとんどまともにパンチをもらわない卓越したディフェンス技術である。ウィービングやダッキングといった上体の動きでララのパンチをくるくる空回りさせる姿は圧巻の一言。さすがにグローブでパンチを防ぐ、ブロッキングやカバーリングの頻度は多くなり、多少の被弾もあったが、決して芯では食わない。

 井岡が的確な右カウンター、左ボディを要所に決め、ララはしつこくコンビネーションを繰り出す。序盤は有効打の井岡、手数のララで推移。4ラウンドまでの公式スコアは攻め数が多く、攻勢を印象づけるララが2−1(40対36、39対37、37対39)でリードしていたが(非公開)、井岡がじわり挑戦者を削っていた。

 実を結んだのは5ラウンド。井岡の左ボディでララの動きが明らかに鈍る。ラウンド終盤には上下に連打をまとめ、場内を沸かせた。6ラウンドに入ると手数が減り、前進が鈍ったララに対し、左ジャブで井岡が距離をつくり出す。こうなると井岡が完全に主導権を握る。自在に出入りし、粘りを見せるララをコントロールしながら、着実にダメージを蓄積させた。9ラウンドには相打ちで右を狙っていくなど、KOの意欲を露わに。足並みのそろわなかったジャッジは5ラウンド以降、全員が井岡を支持した。

理詰めでしとめる井岡のボクシング

次戦は、ロマゴンが去った後に“階級最強”候補となるエストラーダとの統一戦となる可能性が高まっている 【写真は共同】

 迎えた10ラウンド、井岡の左ボディからの右ストレートでララがよろよろと後退し、後続打に耐えきれずにダウン。何とか立ち上がったものの、足もとの覚束ないララをコーナーに追い込む。ここは攻めきれずにゴングにさえぎられたが、次の11ラウンド開始ゴングと前後し、巻き起こったKOを期待する拍手に井岡が応えてみせた。ダメージの抜けきらないララに右を効かせ、さらにワンツーの連打を浴びせると力なくダウン。ララはぎりぎりまで待って立ち上がったが、レフェリーが10カウントを数え上げた。

 最終的に自分の形に持ち込み、振り返ると序盤の選択からフィニッシュまでがきれいにつながる。それが一発強打ではなく、理詰めでしとめる井岡のボクシングなのだが「本来は後半のボクシングを最初からできるのが理想」と井岡は高みを求める。

 では、果たしてプレッシャーの強さも、パンチ力も、総合的にララより数段上のエストラーダに対して、井岡の感性はどのような戦い方を選択するのだろうか。逆に井岡の“打たせない”ボクシングを切り崩すのは、いかにエストラーダでもそう簡単とは思えない。実力者同士の顔合わせは展開を想像するだけで胸躍るものがある。

 フライ級は最強として君臨したWBC王者のロマゴンが9月10日、4階級制覇を目指して、アメリカ西海岸でWBCスーパーフライ級王者のカルロス・クアドラス(メキシコ/帝拳)に挑戦することが決定。ライトフライ級時代にロマゴンを苦しめ、対抗馬と目されてきたエストラーダが次の階級最強候補になる。エストラーダは昨年末に痛めていた右拳を手術するなど、昨年9月以来の長期ブランクをつくっている。回復状況を含め、今後の両陣営の交渉が注目されるが、井岡にとっては真価を証明するまたとないチャンスである。WBAが設定する交渉期限は8月20日。実現の報を期待して待ちたい。
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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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