由規、5年ぶり登板に周囲も特別な思い 待ち遠しい神宮のお立ち台に上がる日
石井弘寿コーチからもエール
11年9月3日の巨人戦、ピンチを切り抜けガッツポーズを見せる由規。この日から約5年間、1軍のマウンドから遠ざかった 【写真は共同】
「あまり私情は挟みたくないんですけど、やっぱり違った感情で見てしまいますね。とにかく緊張せず、やってきたことに自信を持って投げてほしい。ここがゴールじゃないですけど、見ていて胸を打たれる登板になると思います」
およそ5年ぶりとなる由規の1軍登板を翌日に控えた今月8日、イースタンの東北楽天戦で神宮を訪れたヤクルトの石井弘寿2軍投手コーチは、そう言ってエールを送った。それは自身も現役時代に肩のケガに泣き、カムバックできないまま引退を余儀なくされた者ならではの言葉だった。
三塁手・川端「泣きそうになった」
初回に犠飛で1点を失ったものの、ヤクルトはその裏、先頭の西浦直亨が「ヨシ(由規)さんが先発やったし、なんとかしてやろうという気持ち」で同点のソロアーチ。再び1点を勝ち越された3回裏には「守っててウルウルしてました。1年だけだったけど、(13年に)僕も一緒にリハビリをやってたんで、頑張ってる姿も見てましたし」という雄平が、右前適時打で試合を振り出しに戻した。
ところが、5回にまたも勝ち越しを許すと、由規は6回には3連打で無死満塁のピンチを招く。ここでバッターは代打の森野将彦。この時、三塁を守る川端は必死で涙をこらえていた。
「試合中なのに泣きそうになりました。『もうひと踏ん張り頑張れ!』って……アイツがすごい苦しんできたのも知ってましたしね」
そんな思いに応えるかのように、由規は森野をストレートで簡単に2ストライクと追い込む。この日の投球は、全盛期をほうふつとさせるようにほとんどがストレートとスライダー。
「真っすぐに力がありましたし、スライダーのキレも良かったと思います。変にカーブとか使わなくても、それで打たれたら仕方ないんじゃないかなっていうぐらいの気持ちでやってました」(中村)
全球ストレートでフルカウントから、この日最速タイの149キロがかろうじてバットに当たってファウルになると、続く7球目、この試合の94球目が外れて押し出し。ここで由規は交代を告げられた。
5回0/3で10安打、6失点(自責点5)。復帰戦を白星で飾ることはできなかった。
目標を達成し、出てきた次の欲
思い描いていたイメージは、常に勝ってお立ち台に上がる自分の姿。それを実現することはできなかった。故郷の仙台から応援に訪れた両親、そして兄に白星を贈ることはできなかった。それでも──。
「勝利をプレゼントできれば一番良かったんですけど、これで終わりじゃないんで。まずは投げる姿を見せられたので良かったと思いますし、次の試合でしっかり勝利を届けられるように頑張りたいと思います」
今年は「目標を『とにかく1軍で1球でも投げる』ってハードルを下げたことで、気持ちが楽になった」と話していた由規だが、その目標を達成したことでまた欲が出てきたという。次の目標は神宮のお立ち台か──。そう水を向けるとニコッと笑ってうなずいた。彼の中では既にそのシーンがイメージできているはず。次の登板はまだ決まっていないが、早くもその日が待ち遠しくなった。