「サッカーアクション」の質を上げる方法 動きを分解し、トレーニングに生かす

中田徹

アンディ・バルがメソッドを公開

エキスパート・ミーティングに参加し、世界中から集まった指導者たちやメディカル関係者にメソッドを公開したアンディ・バル 【ワールドフットボールアカデミー】

 イングランドのマンチェスター・シティ、サウサンプトン、ボルトン、米国のニューヨーク・シティFCに加え、NBAの名門チーム、ニューヨーク・ニックスでもフィジオセラピストを務めたアンディ・バルがこの6月、オランダで開かれたワールドフットボールアカデミーのエキスパート・ミーティングに参加し、世界中から集まった指導者やメディカル関係者に彼のメソッドを公開した。

 その名は「サッカーのアクション&ムーブメントトレーニング」。「サッカーのアクションとは何か(=サッカーアクション)」というところを出発点として、フィジカルの強化、負傷の予防、サッカーのパフォーマンスを上げるメソッドである。

「サッカーアクション」の1つが“プレス”である。“プレス”から“サッカー”の要素を取り除くと“スプリント”“ストップ”という動きに分解される。“ヘディング”という「サッカーアクション」は“ジャンプ”“着地”という動作から成り立っている。こうした「サッカーアクション」から“サッカー”という要素を取り除いた動きを「ベーシックアクション」と言う。この「ベーシックアクション」をトレーニングすることによって、「サッカーアクション」の質を上げていくのが「サッカーのアクション&ムーブメントトレーニング」だ。

「『サッカーアクション』にはプレス、切り替え、ヘディング、セカンドボールの奪い合い、シュートなど、いろいろな動きがあります。これを『ランニング&ストップ』『ストップ&ジャンプ』などとブレークダウンし、これらのコンビネーションから、さらに個別の動きのトレーニングへと発展させていきます。私はニックスでバスケットボール・ストレングスもやりましたが、ブレークダウンすると似通った点がたくさん出てきます。バスケットボールはジャンプと着地といった垂直的な動きの多いスポーツですが、サッカーでも高いクオリティーが求められますしね。

 選手には筋力の強さが必要です。動きをコントールするために、筋力はとても重要なものです。しかし、筋力の強さだけではダメです。やりすぎるとオーバーマッスル(過剰筋肉)になってしまい、そのスポーツに適した正しい姿勢が損なわれてしまったり、スムーズな動きが取れなくなったりします。だから、われわれは筋力の強さにフォーカスするのではなく、アクションにフォーカスしています」(アンディ・バル)

分析してテストをすると、課題が見えてくる

 今回のエキスパート・ミーティングでは、フェイエノールトU18の試合を実際に見て、「サッカーのアクション&ムーブメントトレーニング」の観点から選手の動きをチェックし、改善ポイントを見つけた。この分野のエキスパートの1人、相良浩平は「試合をチェックすると、意外と多くの欠点が選手から見つかるものです」と言う。

「『プレスの動きが不自然だな』と思った選手を試合後に呼んで、『ベーシックアクション』のテストをし、膝や股関節のポジションをチェックしました。ここで見つかった問題箇所を改善するトレーニングを考えていくわけです」

“プレス”するため、スプリントしてからストップし、それから次のプレーに移るために方向転換してから再びスプリント――という一連の流れがうまくいかない選手がいるとする。これを“スプリント”“ストップ”という「ベーシックアクション」から、さらに細かく「ベーシックムーブメント」へ分析して具体的なトレーニングメニューを作成していく。

「ストップする時に、上半身のコントロールを失って、ほどよい前傾姿勢を保てず、左右に流れたり、前に突っ込み過ぎたりすると、プレスから次のプレーがうまくいきません。この場合は、上半身のムーブメントトレーニングや体のポジションを矯正するトレーニングなどが考えられます。また、足首の可動域が小さいと、ストップした時に足首が力を吸収し切れず、逃げ切れなかった力が膝にかかって内側に流れてしまう。その場合は、足首の可動域を広げてまっすぐ着地するトレーニングをします。

 しかし、膝が内側に流れてしまうのは、臀部の筋力が弱いことが原因の場合もあります。このように、試合を見て選手を分析してテストをすると、いろいろな課題が見えてきて、さまざまなトレーニングが実行可能となり、“プレス”という『サッカーアクション』の質を上げていくことができます。

 これまでの筋力トレーニングだと『足腰を鍛えましょう』とか『体幹を鍛えましょう』とか、改善することの目的が漠然としていました。この『サッカーのアクション&ムーブメントトレーニング』ですと、“プレス”という『サッカーアクション』を改善するためのトレーニングというふうに、目的が明快になります」(相良)

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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