「赤い傘」論争で考える応援のあり方 カネシゲタカシの『ぷぷぷぷプロ野球』

カネシゲタカシ

【イラスト:カネシゲタカシ】

 皆さんは「赤いシリーズ」ってご存知ですか。

「ああ、山口百恵ちゃんが出てたドラマの?」と答えた方はある程度年配の方。いま野球界で「赤いシリーズ」といえば広島カープが仕掛ける一連の応援企画のことを指します。

 ところがいま、この「赤いシリーズ」が一部ファンの間でちょっとした物議をかもしています。

掟破りの応援企画「赤いシリーズ」

 カープの「赤いシリーズ」は2015年から始まったアイデア勝負の応援企画。来場者全員に他球団の応援グッズを“赤くしたもの”を配布し、それでカープを応援しようというコンセプトです。

 球団公式サイトでは「掟破りな赤いグッズを手に入れて、いつもとは違う観戦をお楽しみにください」と紹介されており、これまでに赤いタオル(対巨人)、赤いドアラ風の耳(対中日)、赤いトラ耳(対阪神)、赤いたてがみ(対埼玉西武)などのグッズが登場しました。

 そして6月30日の対東京ヤクルト戦では「赤いミニ傘」を来場者全員にプレゼント。去年の5月以来2度目の登場となった赤い傘は、カープファンによってスタンドを覆い尽くすように掲げられ、曲に合わせて一斉に振られたりと、まるでお祭りのような光景が繰り広げられました。

 個人的には「洒落が効いてて面白い企画だな」程度の感想しかなかったのですが、これが一部のヤクルトファン、そして広島ファンの間でちょっとした論争の種となっています。

 なぜならヤクルトファンにとっての傘応援は、彼らのアイデンティティだからです。

“燕党の魂”を使用したことに疑問

 ヤクルト名物の傘応援は、かつて応援団長として活躍された故・岡田正泰氏が80年代に考案された応援スタイルです。

「少ないファンを多くみせたい」「どこの家にもあるからお金がかからない」などの理由で採用されたビニール傘での応援は、神宮のライトスタンドで「オヤジ」と呼ばれ愛された岡田氏の思いと物語をのせて、いまではすっかりヤクルトの名物となりました。

 そんな“燕党の魂”をカープの応援アイテムとして拝借した「赤いシリーズ」に、ファンの一部から疑問の声があがったというわけです。

 ヤクルトファンからは「別にかまわない」という意見がある一方で、「不快だ」「挑発としか思えない」などの厳しい声があがりました。一方の広島ファンからも「ユーモアなんだから別にいいだろう」と企画を擁護する意見の一方で、「ケンカを売ってる風にも見えるから自重したほうがいい」という声があがったりと、まさに賛否両論。

 たかが応援、されど応援。いろいろ考えさせられる問題ですね。

知らず知らずに踏み入れた聖域!?

 思うにこの「赤いシリーズ」、カープ球団としては千葉ロッテの「交流戦挑発ポスター」のように半ば笑いをもって受け入れられるジョーク企画として考案されたのでしょう。

 たしかに「赤いドアラ耳」や「赤いたてがみ」には「なんだこりゃ」という笑いがあります。当然「赤い傘」も同じベクトルの発想で生まれたはずですが、知らず知らずのうちに聖域に足を踏み入れていた……というのが率直なところでしょう。

 そして去年の段階で疑問の声が上がっていたにも関わらず2年連続で「赤い傘」を登場させたことも、一部ファンから反発を招く原因となったのではないでしょうか。

 これに関しては怒りの伏線となるような“事件”がありました。それは2015年5月16日の対横浜DeNA戦でカープが企画した「常車魂〜RED RIDING〜」というイベント。なんとこれが、ビジター応援席に貸切新幹線で来場したカープファンを入れてスタジアム全席をカープファンで埋め尽くそうとした“ビジター客締め出し企画”だったのです。

 当然、「相手チームがあってこそのプロ野球なのに何を考えているのか」と野球ファン全体(カープファン含む)から批判の声があがり、謝罪のうえ企画内容は変更。わずかながらDeNAファン向けにもチケットが販売されることとなったのです。

 そのイベントから1週間もたたないうちに最初の赤いミニ傘イベントは行われました。そんな経緯もあり、カープ球団の他球団に対するリスペクトの姿勢には、やや不信がつきまとうこととなったのです。

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著者プロフィール

1975年生まれの漫画家・コラムニスト。大阪府出身。『週刊少年ジャンプ』(集英社)にてデビュー。現在は『週刊アサヒ芸能』(徳間書店)等に連載を持つほか、テレビ・ラジオ・トークイベントに出演するなど活動範囲を拡大中。元よしもと芸人。著書・共著は『みんなの あるあるプロ野球』(講談社)、『野球大喜利 ザ・グレート』(徳間書店)、『ベイスたん』(KADOKAWA)など。

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