- 中田徹
- 2016年7月2日(土) 17:00
ベルギーの若さが出てしまった準々決勝

ユーロ(欧州選手権)2016の決勝トーナメントで「死の山」を免れたベルギーにとって、決勝までの視界は良好だったが、準々決勝でウェールズ相手に1−3と完敗し、ベスト8で散ってしまった。翌朝の全国紙『ヘット・ラーツテ・ニウス』は、「アデュー、トレーナー(さようなら、監督)」と大見出しを打ち、マルク・ウィルモッツ監督の退陣を要求した。
ウェールズ戦では、スタメンの平均年齢24歳242日という若さが出た。キックオフから攻勢に出たベルギーは13分、MFラジャ・ナインゴランが強烈なミドルシュートを決めて、順当に先制点を奪った。しかし、前半の半ば頃からペースが落ちて、劣勢に陥った。ターニングポイントになったのが、左サイドを突かれていた時間帯。26分、せっかく奪い返したボールをナインゴランが失い、ショートカウンターから大ピンチを招いたことで、選手たちは自らハンドブレーキをかけて、前に出なくなってしまった。
トーマス・フェルメーレンの出場停止、ヤン・ベルトンゲンの負傷もあって、ウィルモッツ監督はセンターバックのジェイソン・デナイヤー(20)、左サイドバック(SB)のジョルダン・ルカク(21)を抜てきした。右SBのトーマス・ムニエルは24歳と中堅どころだが、代表チームのレギュラーになったのは、今回のユーロの2戦目から。トビー・アルデルワイレルトを除くと、非常に心もとない最終ラインだった。先制した後の大きなミスによって、選手の重心が後ろにかかってしまった。
31分にはCKから同点ゴールを奪われる。ウェールズはギャレス・ベイルら前線の4人が一塊になって、ベルギーのマークを混乱させた。CKのボールが蹴られる直前までウィルモッツ監督はベンチから、守備の修正をほえるように与えていた。しかし選手の耳に届くはずがなく、アシュリー・ウィリアムズにヘディングシュートを決められた。ベルギーの選手によれば、マークを外したのはデナイヤーだったという。
更衣室で怒りをあらわにしたクルトワ

後半、ウィルモッツ監督は右ウイングのヤニック・フェレイラ・カラスコを下げ、MFマルアン・フェライニを投入し、トップ下のケビン・デ・ブライネを右ウイングへ回した。初戦のイタリア戦(0−2)は4−3−3、その後のベルギーは4−2−3−1と中盤の構成が変わったとはいえ、MFアクセル・ビツェル、ナインゴラン、フェライニ、FWデ・ブライネ、ロメル・ルカク、エデン・アザールという陣容はイタリア戦で機能しなかったもの。後半の立ち上がりこそチャンスを作ったベルギーだったが、55分に手痛い勝ち越しゴールをウェールズに決められてしまった。
以降、ウィルモッツ監督はフェライニを前線に上げ、ロングボール攻撃を試みたり、DFを1枚削ってドリース・メルテンスを入れてみたり、ストライカーをR・ルカクからミシー・バチュアイに代えてみたりと試みたが、86分にダメ押しの3点目を決められて1−3と万事休した。
イタリア戦後に「戦術、テクニック、共に相手が上回った」と率直な意見を述べたGKティボ・クルトワは、ウェールズ戦後も本音を語った。
「僕は更衣室でも怒っていた。何がうまくいかなったのか、僕は自分の意見を言った。タイトルを奪うためには何が必要なのか、僕には分かっていた。僕の言葉を誰も遮ることはできなかった。バンサン・コンパニ(負傷のためメンバー招集外だが、チームに帯同していた)も、僕の言葉を止めることはできなかった。だから、僕の分析は正しかったんじゃないだろうか」
戦術のミスに関しては、イタリア戦と変わらなかったという。
「相手チームが3−5−2で来ると、いつもベルギーは苦戦を強いられる。イタリア戦、準備試合のフィンランド戦(1−1)、今日のウェールズ戦もそうだった。ベルギーは、このようなシステムに対して準備をしていなかった」
「今は辞めることを決断する場面ではない」

試合後、ウィルモッツ監督はクルトワの批判を知った。
「私はティボの意見に反対だ。彼はチェルシーで厳しいシーズンを終えて、ユーロで優勝したいと願っていた選手だ。戦術にミスはなかった。問題があったのはオートマティズムとコミュニケーションだった。ティボは試合が終わってガッカリしたこともあって、そうしゃべったのだ」
気になるのはウィルモッツ監督の去就だ。今大会中、高まる批判に、「自分はこのプレッシャーに耐えられるが、家族が耐えられない」「すでに自分は大会後、どうするか決めている」とウィルモッツ監督は言っていた。ウィルモッツ監督には中国からオファーがあるといううわさもある。ウェールズ戦後の記者会見で彼は言った。
「アドレナリンが高まっている中で、辞めるかどうか決断したくない。まずは考えたい。今は辞めることを決断する場面ではない」
ベルギーメディアは、「選手たちは『黄金世代』。今こそ、“本当の代表チームの監督”がほしい」と記す。次期監督候補として有力なのはクラブ・ブルージュのミシェル・プロドームと、ヘントのハイン・バンハーゼブルックの2人である。