若さを露呈しベスト8に終わったベルギー チーム内外から噴き出る監督批判

中田徹

ベルギーの若さが出てしまった準々決勝

ベルギーは準々決勝でウェールズ相手に1−3と完敗し、ベスト8で散った 【写真:ロイター/アフロ】

 ユーロ(欧州選手権)2016の決勝トーナメントで「死の山」を免れたベルギーにとって、決勝までの視界は良好だったが、準々決勝でウェールズ相手に1−3と完敗し、ベスト8で散ってしまった。翌朝の全国紙『ヘット・ラーツテ・ニウス』は、「アデュー、トレーナー(さようなら、監督)」と大見出しを打ち、マルク・ウィルモッツ監督の退陣を要求した。

 ウェールズ戦では、スタメンの平均年齢24歳242日という若さが出た。キックオフから攻勢に出たベルギーは13分、MFラジャ・ナインゴランが強烈なミドルシュートを決めて、順当に先制点を奪った。しかし、前半の半ば頃からペースが落ちて、劣勢に陥った。ターニングポイントになったのが、左サイドを突かれていた時間帯。26分、せっかく奪い返したボールをナインゴランが失い、ショートカウンターから大ピンチを招いたことで、選手たちは自らハンドブレーキをかけて、前に出なくなってしまった。

 トーマス・フェルメーレンの出場停止、ヤン・ベルトンゲンの負傷もあって、ウィルモッツ監督はセンターバックのジェイソン・デナイヤー(20)、左サイドバック(SB)のジョルダン・ルカク(21)を抜てきした。右SBのトーマス・ムニエルは24歳と中堅どころだが、代表チームのレギュラーになったのは、今回のユーロの2戦目から。トビー・アルデルワイレルトを除くと、非常に心もとない最終ラインだった。先制した後の大きなミスによって、選手の重心が後ろにかかってしまった。 

 31分にはCKから同点ゴールを奪われる。ウェールズはギャレス・ベイルら前線の4人が一塊になって、ベルギーのマークを混乱させた。CKのボールが蹴られる直前までウィルモッツ監督はベンチから、守備の修正をほえるように与えていた。しかし選手の耳に届くはずがなく、アシュリー・ウィリアムズにヘディングシュートを決められた。ベルギーの選手によれば、マークを外したのはデナイヤーだったという。

更衣室で怒りをあらわにしたクルトワ

初戦でイタリアに敗れた後、「戦術、テクニック、共に相手が上回った」と率直な意見を述べたクルトワ(中央)は、ウェールズ戦後も本音を語った 【写真:ロイター/アフロ】

 後半、ウィルモッツ監督は右ウイングのヤニック・フェレイラ・カラスコを下げ、MFマルアン・フェライニを投入し、トップ下のケビン・デ・ブライネを右ウイングへ回した。初戦のイタリア戦(0−2)は4−3−3、その後のベルギーは4−2−3−1と中盤の構成が変わったとはいえ、MFアクセル・ビツェル、ナインゴラン、フェライニ、FWデ・ブライネ、ロメル・ルカク、エデン・アザールという陣容はイタリア戦で機能しなかったもの。後半の立ち上がりこそチャンスを作ったベルギーだったが、55分に手痛い勝ち越しゴールをウェールズに決められてしまった。

 以降、ウィルモッツ監督はフェライニを前線に上げ、ロングボール攻撃を試みたり、DFを1枚削ってドリース・メルテンスを入れてみたり、ストライカーをR・ルカクからミシー・バチュアイに代えてみたりと試みたが、86分にダメ押しの3点目を決められて1−3と万事休した。

 イタリア戦後に「戦術、テクニック、共に相手が上回った」と率直な意見を述べたGKティボ・クルトワは、ウェールズ戦後も本音を語った。

「僕は更衣室でも怒っていた。何がうまくいかなったのか、僕は自分の意見を言った。タイトルを奪うためには何が必要なのか、僕には分かっていた。僕の言葉を誰も遮ることはできなかった。バンサン・コンパニ(負傷のためメンバー招集外だが、チームに帯同していた)も、僕の言葉を止めることはできなかった。だから、僕の分析は正しかったんじゃないだろうか」

 戦術のミスに関しては、イタリア戦と変わらなかったという。

「相手チームが3−5−2で来ると、いつもベルギーは苦戦を強いられる。イタリア戦、準備試合のフィンランド戦(1−1)、今日のウェールズ戦もそうだった。ベルギーは、このようなシステムに対して準備をしていなかった」

「今は辞めることを決断する場面ではない」

ベンチから守備の修正をほえるように与えていたウィルモッツ監督(左)。大会後の去就に注目が集まる 【写真:ロイター/アフロ】

 試合後、ウィルモッツ監督はクルトワの批判を知った。

「私はティボの意見に反対だ。彼はチェルシーで厳しいシーズンを終えて、ユーロで優勝したいと願っていた選手だ。戦術にミスはなかった。問題があったのはオートマティズムとコミュニケーションだった。ティボは試合が終わってガッカリしたこともあって、そうしゃべったのだ」

 気になるのはウィルモッツ監督の去就だ。今大会中、高まる批判に、「自分はこのプレッシャーに耐えられるが、家族が耐えられない」「すでに自分は大会後、どうするか決めている」とウィルモッツ監督は言っていた。ウィルモッツ監督には中国からオファーがあるといううわさもある。ウェールズ戦後の記者会見で彼は言った。

「アドレナリンが高まっている中で、辞めるかどうか決断したくない。まずは考えたい。今は辞めることを決断する場面ではない」

 ベルギーメディアは、「選手たちは『黄金世代』。今こそ、“本当の代表チームの監督”がほしい」と記す。次期監督候補として有力なのはクラブ・ブルージュのミシェル・プロドームと、ヘントのハイン・バンハーゼブルックの2人である。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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