レーシングドライバーの育成方法とは? 中嶋悟、関谷正徳が語るスクールの役割

田口浩次

鈴鹿サーキットにて中嶋悟氏、関谷正徳氏にインタビューし、レーシングスクールの意義などについて語ってもらった 【田口浩次】

 近年、テニスの錦織圭やゴルフの松山英樹らを筆頭に、若くして世界のトップカテゴリーで活躍する日本人が次々と誕生している。もちろん、これは日本に限らず、各スポーツ界のアスリート年齢の低年齢化が進んでいるのが現状で、日本のスポーツ界がそうした潮流に追いついている証拠ともいえる。一方、モータースポーツに目を向けると、日本人F1ドライバーは、中嶋一貴が2007年に22歳で、小林可夢偉が09年に23歳でデビューを果たした以降は日本人ドライバーのフル参戦はいない。

 しかし、現在ホンダの育成ドライバーである、松下信治(22歳)がGP2参戦2年目の今年、モナコGPで勝利しステップアップの道が開けてきた。さらにGP3には、昨年全日本F3選手権で4位に入った福住仁嶺(19歳)が参戦中だ。先はわからないものの、数年内には日本人F1ドライバー誕生の可能性が高まっている。

 若くして才能を開花させ、さらに世界トップで争える位置にいなければ、もはや日本のスポーツファンの関心を集めることは難しい。そうした、若い才能の発見と育成の難しさを、ホンダとトヨタ、それぞれでステップアップのためのアカデミーを主宰している中嶋悟氏と関谷正徳氏に話を聞いた。

ホンダとトヨタのスクールとは?

 まずそれぞれのスクールのシステムの違いについておさらいしておこう。

 ホンダは鈴鹿サーキット・レーシングスクール・フォーミュラ(SRS−F)というスクールを開校し、中嶋氏が校長を務める。SRS−Fは『体験スクール』→『ベーシック』→『アドバンス』とスクール内容が3段階あり、『体験スクール』では実技2日間×1回のカリキュラム、『ベーシック』では実技2日間×2回のカリキュラム、そして『ベーシック』で一定基準をクリアした人だけが『アドバンス』の受講が可能になる。『アドバンス』は合計10日間の授業で、中身も実戦的となり、受講料も『体験スクール』が9万円(税別)、『ベーシック』が20万円(同)だったものが、『アドバンス』では270万円(同)と跳ね上がる(開催時期は4月〜7月)。さらに『アドバンス』で成績優秀なドライバーは、無料でスカラシップ選考会(時期は1月〜3月)を受けることが可能になる。
 注目すべき点は、最初の『体験スクール』の受講資格は、16歳、17歳はカートレース経験者だが、18歳以上は普通自動車免許保有者でカートレース実績は問われない。

 一方、関谷氏が校長を務めるフォーミュラトヨタ・レーシングスクール(FTRS)は、よりオーディション形式のスクールだ。FTRSでは、受講資格にカートレースでの実績が必要で、よりドライバー発掘を目的とした選考会要素が大きい。2泊3日のスクールのなかで、成績優秀者だけがもう1日あるエキスパートクラスに参加でき、さらにフォーミュラレースへのスカラシップ対象となる。15年の応募資格を確認すると、受講定員は12名で費用は21万6000円(税込)。成績優秀と認められれば、FIA−F4シリーズにトヨタ育成ドライバーとして挑戦するチャンスがある。毎年夏にこのスクールは開催されるので、まもなく今年の募集要項が発表されるはずだ。

入校時点ではわからない才能

 ただ、どちらのスクールも名前こそ学校となっているが、一般の人が想像する学校とは違う。イメージとしては塾などの選抜強化合宿などに近い。また、塾とも違うのは、受講する生徒の年齢もバラバラということだ。そのことは、中嶋氏も説明してくれた。

「レーシングスクールは16歳の子もいれば、18歳、20歳の子もいます。レース経験はないけど普通免許を持っている子もいれば、持ってないけれどカートレースでチャンピオンになってる子がいたりと、スタート時点の条件がまるで違うわけです。それもあって、入校時から劇的に伸びる子もいれば、鳴り物入りで入校したのに伸び悩む子もいます。SRS−Fの場合は、半年程度見る期間があるので、いろいろと見えてきます。しかし、入校時に半年後、誰が残るのかは読めないですね。レースは他の競技スポーツと同じで結果がすべて。レースはタイムがすべてです」とのことだ。

 やはりモータースポーツの世界もアスリートと同じで結果がすべて。しかし、陸上競技のような各選手の競技条件が同じスポーツと違い、モータースポーツは育った土壌によるスタイルや個性の違いが生じると関谷氏が語った。

「正直、育成ドライバー枠を勝ち取れるドライバーや、F3やその先にステップアップしているドライバーは全員天才ですよ。プロ野球やメジャーリーグもそうでしょう? プロに上がるには天才であることがスタートライン。そこからの競争です。モータースポーツってすごく難しいんです。ヨーロッパで育った環境、日本で育った環境、そして米国で育った環境、それぞれ違う。ある環境で育ったドライバーが、アウェーでいきなり戦うと、すごく不利なスポーツなんです。
 例えば、ハミルトンがスーパーフォーミュラに来ました。絶対勝つぞ、とはならない。つまりある意味、スーパーフォーミュラは世界一なんです。インディも世界一だし、F1も世界一。それぞれのカテゴリーは別物で、F1が頂点ではない。そうしたことがわかってくると、モータースポーツをより深く理解できると思います。キミ・ライコネンがラリーへ行っても通用しませんでした。ファン・パブロ・モントーヤがNASCARへ行っても通用しませんでした。モータースポーツは環境によって通用するドライバーとしないドライバーがいます。それくらい各カテゴリーが専門化、洗練化されている。相性というか適正があると思いますね」

1/3ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント