バルセロナが認めた日本の設計事務所 知られざるカンプ・ノウの改築計画(1)

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新カンプ・ノウのデザインコンペの勝者は日本の設計事務所

メッシ(左端)、イニエスタ(左から2番目)らトップチームの選手が参加して、カンプ・ノウの改築計画のお披露目イベントが行われた 【写真:ロイター/アフロ】

 バルセロナの本拠地カンプ・ノウの改築プロジェクトを日本の設計事務所が請け負うことをご存知だろうか。今年3月、地元カタルーニャの建築事務所ジョアン・パスクアル=ラモン・アウシオ アルキテクテスと組んだ日建設計が、デザインコンペティションの勝者に決まったことが発表され、4月21日にはリオネル・メッシらトップチームの選手も参加して改築計画のプレゼンテーションイベントが行われた。

 日建設計は建築の設計監理、都市計画を中心に、建築と都市のライフサイクル全般にわたる調査・企画・コンサルティングを行う日本最大の総合設計事務所。新潟スタジアム(デンカビッグスワンスタジアム)、茨城県立カシマサッカースタジアムをはじめ、東京ドーム、京セラドーム大阪、さいたまスーパーアリーナなど数多くのスポーツ・エンターテインメント施設を手掛けている。

 カンプ・ノウの改築工事は予定通りにいけば来年6月に着工し、スタジアムを使用しながら徐々に改築を進めていく。完成は2020−21シーズンの予定だ。一連のプロジェクトは「エスパイ・バルサ」と呼ばれている。「エスパイ」とはカタルーニャ語で「空間」を意味し、バスケットやフットサルのホームアリーナである「パラウ・ブラウグラナ」、サッカー練習場、さらにカンプ・ノウ周辺を含めた大規模な改築プロジェクトとなる。費用の総額はおよそ6億ユーロ(約704億円)。うち6割にあたる3億6000万ユーロ(約423億円)がカンプ・ノウの改築費用とされている。

 新カンプ・ノウの設計をメーンで担当したのは、日建設計の設計部長である勝矢武之氏。2020年の東京五輪に向けた新国立競技場のコンペでは、SANAA(サナア、妹島和世と西沢立衛による建築家ユニット)と組んで設計を担当した。新カンプ・ノウのデザインや機能面について、勝矢氏に解説していただく。

現カンプ・ノウの問題点を改善

1957年に完成した現カンプ・ノウは劣化が目立ってきた上、機能面でも問題が出てきている 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 現カンプ・ノウは1957年に完成。拡張・改築などを経て、今は9万9354人収容となっている。ヨーロッパでも最大規模のスタジアムだが、約60年を経て劣化が目立ってきた上、4割ほどが完成当初のままになっており、機能面でも問題があるという。

「一例を挙げると、座席の距離がとても狭く、客席を覆っている屋根がメーンスタンドの側にしか今はありません。加えて、スタジアムの周りは人と車の動線が交錯している状態になっていて、駐車場も十分に取れていないんです。また実は、カンプ・ノウは非常に有名なスタジアムですが、一番いい席であるはずの一階席の一部が意外と試合が見にくいという問題を抱えています」

 観戦時の快適さの向上は、新カンプ・ノウの特徴の1つだ。座席数は10万5000に増えるが、1階席も傾斜をつけることで、どの席にも死角がなく、よく見えるようになるという。また、座席間、通路のスペースも広くなり、すべての客席が屋根で覆われる。階段、エスカレーター、エレベーターを集約した昇降用サーキュレーションコアが12カ所設置され、2階席、3階席へのアクセスも改善。車いすなどを使用した人のアクセシビリティーも配慮されている。また、駐車場は地下に配置し、約3500台が収容可能となる。

「新カンプ・ノウはぐるっと全体がほぼ同じデザインになっているんです。スタジアムによっては表と裏みたいなものがあったりするんですが、バルセロナはオーナークラブとは真逆の民主的なクラブで、たくさんのソシオ(クラブ会員)がシーズンチケットを持っているんですね。ファンを大切にしたいというクラブの思いがあって、すべての人が同じように見やすくて、同じように楽しめるスタジアムを作りたいと。ですから、どこもすべて同じ条件で、3階席にいても北側にいても南側にいても同じように試合が楽しめて、同じような形になっている、そういうスタジアムを作ろうと考えました」

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