ハリルホジッチ「優勝候補はクロアチア」 ユーロのグループリーグ総括&決勝T展望

WOWOW

「強豪国」と言えるチームがなくなった

日本代表のハリルホジッチ監督がユーロのグループステージを総括し、決勝トーナメントの展望を語った 【Getty Images】

 フランスで行われているユーロ(欧州選手権)2016はグループステージの全日程が終了し、日本時間25日の夜からは決勝トーナメントが始まる。大会3連覇を目指すスペインや2014年ワールドカップ(W杯)覇者のドイツなど強豪国が順当に勝ち進んだ一方、58年ぶりのメジャー大会ながらグループBを1位で突破したウェールズ、ユーロ初出場のアイスランドなども16強に名を連ねた。

 決勝トーナメントではどんな戦いが見られるのか。UEFA EURO 2016TM WOWOWアンバサダーのヴァイッド・ハリルホジッチ監督がグループステージの総括と決勝トーナメントの展望を語った。

――グループリーグが終了して、ベスト16が出そろいました。ここまでの大会を振り返っての印象は?

 最初の印象は「強豪国」と言えるチームがなくなったということ。各チームのレベルの差が縮まってきている。強豪国と言われているチームが勝つためには、積極性、集中力、丁寧さを必要としていて、自分たちの力を100%出し切らないと勝てない。

 この大会ではサプライズもあるが、全体的にはあまり良いサッカーが見られていない。攻撃面は物足りないし、多くのチームが引いて守っている。10チーム中8チームぐらいが引いて守って、中央に選手を集めるブロックディフェンスをしている。

 そういう守備に対してゴールチャンスを作るためには、サイドから展開してクロスをあげなければならない。実際、サイド攻撃でゴールに結びついた統計は知らないが、こういう守備に対して、ゴールを奪うための一番理想的な形と言えるだろう。

――優勝候補チーム(ドイツ、フランス、スペイン、イタリア、イングランド)の戦いぶりについてはどう見ていますか?

 強豪国と言われているチームも、中には抑えてプレーをしている印象が見受けられる。疲労なのか、グループリーグで力を温存しているのかは分からないところだ。ドイツは中でも積極的なサッカーを続けている。イタリアは本来の守備をきっちり固めるサッカーをしている。攻撃面は物足りないが、幸い、少ないゴールチャンスを決めている。

 スペインは3戦目(クロアチア戦、1−2)に関して、がっかりする内容だった。逆に対戦相手のクロアチアは数カ月前から注目していて、サプライズを起こせる力を持っていると感じた。大会の頂点(優勝)を狙える力を備えているチームだ。

 フランスはまだ本当の姿を見せていない。プレッシャーを感じているのか、守備のブロックも低いし、前線のプレスもあまりなく、ボールを積極的に取りにいっていない。そのためボールを奪ってから早い攻撃ができず、作り出しているチャンスはすべて個人技のおかげになっている。

 イングランドは可能性の秘めたチームであることは確かなのだが、ゲームプランに曖昧な部分が多く、力を出し切っていない。ただ、高い位置でプレスをかけているし、前線には4〜5人とても高いポテンシャルを持っている選手がいる。しかし、優勝する力や経験は不足していると思う。

 そういう理由もあって、私にとって一番の優勝候補はクロアチアだね。

グループステージのベスト11は?

ハリルホジッチ監督はノイアーを「世界一のGKであることをあらためて証明した」と評価 【写真:ロイター/アフロ】

――ここまでの大会ベスト11を選ぶなら誰を選びますか?

 まず、システムは4−3−3。(ドイツのマヌエル・)ノイアーは初戦から素晴らしいプレーを連発し、世界一のGKであることをあらためて証明した。安定感も抜群だし、こういう選手がいるだけで、チームは精神的に強くなるし安心する。

 DFには4選手選びたい。右サイドバックにはクロアチアの(ダリヨ・)スルナ。大会中、父親を亡くすという不幸もあったが、プレーに関してはチームの守備に積極的に参加するし、攻撃面でもオーバーラップ&クロスを常に意識していて、欠かせない存在だ。

 センターバック(CB)にはドイツの(ジェローム・)ボアテング。今のところ素晴らしいパフォーマンスを見せている。ノイアーや彼のおかげで、ドイツがまだ失点していないと言える。左側のCBにはフランスの(ローラン・)コシエルニーかクロアチアの(べドラン・)チョルルカ。チョルルカは右側でプレーをすることもあるがね。

 コシエルニーは1対1にも強く、スイス戦では活躍した。昔は余計なファウルをすることが多く、ペナルティーエリア内でも不安定なプレーが目立っていたが、そういう教訓を生かして今大会はとても良いプレーをしている。(アディル・)ラミとともに、フランスの守備をしっかり支える存在になっている。フランスもまだゲーム中には失点していないからね(ルーマニア戦でPKでの失点がある)。

ラムジーとベイルはウェールズ最大の武器

中盤にはラムジー(左)を選出。ベイルとのコンビを「ウェールズ最大の武器」と語った 【Getty Images】

 中盤選手でまず選んだのはフランスの(エンゴロ・)カンテ。疲れを知らず、予測能力が本当に優れていて、ボランチとしては最高級の選手だ。守備面でも攻撃面でも瞬時のパスや判断が素晴らしく、私にとっても大発見の選手だし、フランスにとっては本当にプラスな存在となっている。まだ若い(25歳)し、さらに経験を積めば、数年後にはフランスには欠かせない存在となるに違いない。

 攻撃的な中盤にはウェールズの(アーロン・)ラムジーかクロアチアの(ルカ・)モドリッチ。モドリッチはあいにく、負傷してしまったが、初戦のプレーを忘れてはならない。ラムジーは(ギャレス・)ベイルとともに、今大会一番のサプライズを起こしていると言っても過言ではない。ラムジーは守備も良いし、攻撃でもゴールを決め、チャンスをたくさん作り、ベイルとのコンビはウェールズにとって最大の武器となっている。

 クロアチアの(イバン・)ラキティッチは毎試合、高いパフォーマンスを見せているし、彼のピッチでの表情を見ているだけで試合に出ている喜びや清々しさが伝わってくる。守備面のプレーはスペインの(ジェラール・)ピケやセルヒオ・ラモスとは対象的だ。スペインのクロアチア戦を振り返っても、二人(ピケとラモス)のプレーは本当に問題があった。理解できない。言葉が見つからない。スペインの問題はロッカールームに原因があるかもしれない。彼らの表情を見ていても、楽しくプレーをしていない。疲労とかではなく、もっと奥深い問題だと思う。政治的な要素とか。でもスポーツとは関係ないことなので、私も深入りしたくない。

パイエはフランスに欠かせない選手

 前線には3人の選手を選んだ。まずはクロアチアの(イバン・)ペリシッチ。彼はサイドアタッカーとして世界を代表する選手だ。彼はセンターFWではない。守備面でも積極的に参加するし、攻撃面でも個人プレーをせず、50〜60メートルのダッシュを何度も繰り返せる能力を持っている。毎回質の高いクロスやパスを出して、正しい判断をする選手だ。

(ディミトリー・)パイエは右側に置いた。フランスにとっては今大会、最も活躍している選手だし、パスやゲーム展開においても欠かせない選手だ。初戦に決勝ゴールを決めているし、スイス戦でもあわやゴールというプレーがあった。

 そして最後のFWはベイル。ラムジーとともに、ごく普通のチームであるウェールズをグループ首位に導いた。二人はチームのためにプレーをすることを心がけているし、個の能力を組織に生かすことが本当に良くできているので、彼らの姿勢をとても評価する。

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