”悲運の街”の歴史を変えたレブロン 杉浦大介のNBAダイアリー キャブズ編
わずか数日間で変わったクリーブランドの歴史
キャブズの優勝パレードの様子。素晴らしい雰囲気に多くの人が目を奪われただろう 【Getty Images】
キャブズのNBAファイナル制覇は、長く低迷してきたクリーブランドのメジャースポーツチームにとって52年ぶりの栄冠だった。その記念すべき祝祭を一目見ようと、130万人ものファンが沿道につめかけた。
人呼んで、「クリーブランド史上最も輝かしい日」——。紙吹雪が舞う中、レブロン・ジェームズ、カイリー・アービングらがファンに手を振る光景には、まさに“ハッピーエンド”という形容がふさわしかった。ダウンタウンに掲げられているレブロンの巨大バナーにも、“チャンピオン”の文字が添えられた。この数日間で、クリーブランドの歴史は永遠に変わったのである。
キャブズと昨季王者ゴールデンステイト・ウォリアーズが対戦した2016年のNBAファイナルは、文字どおり歴史的なシリーズになった。3勝3敗のまま、天下分け目の第7戦に突入。尋常ではない雰囲気の中で行われた最終決戦も、第4クォーター終盤まで89−89の同点。死闘は永遠に続くかのように感じられた。
レギュラーシーズン中にシーズン最多勝記録となる73勝を挙げたウォリアーズが勝てば、“史上最高のチーム“の1つとして記憶されることになる。一方、キャブズが勝てば、球団史上初優勝を果たすと同時に、1勝3敗からの逆転でシリーズを制するNBA史上初のチームになる。
そんな劇的な背景で行われた第7戦のテレビ視聴率は、地上波ABCのNBA中継史上最高の18.9%を記録。これほど注目される状況下で、オハイオアン(オハイオに住む人々)は落ち着かない気持ちだったに違いない。
”選ばれし男”レブロンが躍動
オハイオでの高校時代から“選ばれし男”と呼ばれてきたスーパースター、レブロン(左)が再び躍動 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】
「僕が戻ってきたのには理由がある。クリーブランドの街、オハイオ州北東部、オハイオ州すべて、そして世界中のキャブズファンに優勝をもたらすこと。特別な何かを成し遂げる機会であり、その一部になることができる位置にいるのは幸運だ」
“運命の一戦”の前日、レブロンはそう語っていた。そして、“特別な何か”に到達するための正念場で、レブロンは力を振り絞った。
第7戦の第4クォーターも残り1分50秒から、去年のファイナルでMVPに輝いたアンドレ・イグダーラが速攻からレイアップを決めにかかったところで、レブロンは背後から驚異的なブロックに成功。“ザ・ブロック”として語り継がれそうなプレーで同点を保つと、試合時間も残り53秒のところでアービングが値千金の3点シュートを決めた。ここでついに92−89と勝ち越し、キャブズは“悲願”などという言葉では語りきれないほど待望した優勝に大きく近づいたのだった。
「コービー・ブライアント、ケビン・デュラント、デリック・ローズとか、それぞれの地元で愛されているスター選手はNBAには多いんだろう。しかし、レブロン・ジェームズとキャブズはクリーブランドそのものなんだ(LeBron James & the Cavs are Cleveland)」。筆者がクリーブランドを訪れた昨年末、タクシーの運転手がそう説明してくれたことがあった。そんな話を聞いても、地元に住む以外の人間に両者の関係を完全に理解するのは簡単ではないのだろう。
リーグ屈指の弱小チームに、03年のNBAドラフト全体1位指名選手として地元オハイオ出身の天才児が入団したこと自体がほとんど奇跡に近かった。09年にFAでマイアミ・ヒートに移籍したことは大きな衝撃だったが、14年夏に電撃復帰。その選手が絶対の中心となり、キャブズは昨季、今季と2年連続でファイナルに駒を進めた。