ベルギーが見せたカウンターへの転身
イタリア戦の完敗から立ち直り、決勝Tへ

イブラヒモビッチが会見で言い放った「ラストメッセージ」

イブラヒモビッチはベルギー戦の前日会見の席で、ユーロを最後に代表を引退することを発表していた
イブラヒモビッチはベルギー戦の前日会見の席で、ユーロを最後に代表を引退することを発表していた【Getty Images】

 ユーロ(欧州選手権)2016のグループステージ第3戦、スウェーデン対ベルギーの試合前日、6月21日の記者会見でのことだった。オランダの放送局NOSのレポーター、ベルト・マールデリンクが「ちょっとオランダ語で答えてもらっていいかな?」と、スウェーデン代表のキャプテン、ズラタン・イブラヒモビッチに尋ねた。「ちょっと大変だけど、いいよ」と希代のスーパースターは快く答えた。


 ベルトは挑発するような質問で、相手をイライラさせながら、本音を引き出すのがうまいレポーターだ。イブラヒモビッチを前に、いつもより丁寧な口調だったが「ちょっとネガティブな質問で悪いんだけれど、この試合がスウェーデン代表の最後の試合になったら残念じゃない?」と切れ込んだ。


 すると、イブラヒモビッチは「英語で話す。これが俺のラストメッセージだ」と前置きして、こう言い放った。「スウェーデン代表がユーロで負けたら、その試合が俺の最後の代表マッチになる。自分は五輪に参加しない」と――。このニュースは瞬く間に世界へ広がった。


 現役時代、ベルギー代表の闘う象徴であったマルク・ウィルモッツ監督は、2002年ワールドカップ(W杯)を最後に代表から退く覚悟で大会に臨んだ。不思議なファウルをとられてしまったものの、決勝トーナメント1回戦でブラジル相手に多くの人の記憶に残るオーバーヘッドシュートを決めたことがある。ウィルモッツ監督は、自身の経験から「スウェーデンはズラタンのために一丸となって、ベルギー相手に挑んでくる」と警戒を強めていた。

幸運なベルギーがスウェーデンに勝利して2位通過

ベルギーはグループステージ第3戦でスウェーデンに勝利し、2位通過
ベルギーはグループステージ第3戦でスウェーデンに勝利し、2位通過【写真:ロイター/アフロ】

 翌22日、ニース。ベルギーはセンターバックのトビー・アルデルワイレルトとトーマス・フェルマーレンはもちろんのこと、中盤のアクセル・ウィツェルとラジャ・ナインゴランも片時も目を離さずイブラヒモビッチを自由にさせなかった。わずかな隙を突いてイブラヒモビッチがシュートを放っても、キックした足先がベルギー守備陣の体に当たるほど、ベルギーの体の寄せは早かった。


 試合がカウンターの応酬となり、イブラヒモビッチにもスペースが生まれて、素晴らしいスルーパスを出したシーンがあったが、受け手のマルクス・ベリのトラップが大きくなりチャンスを逃す。「これが逆となって、受け手がイブラヒモビッチでなくて良かった」というのがベルギー人の本音だった。


 終盤、幸運がベルギーに味方する。63分、イブラヒモビッチのシュートがついにゴールネットを揺さぶったが、その直前にベリが危険なプレーをしたとしてゴールは取り消された(ベルギーの全国紙『ヘット・ラーツテ・ニウス』は「不当な取り消し」と表現している)。83分、アンドレアス・グランクビストのシュートは、ゴールラインを越しそうになったが、ケビン・デ・ブルイネがクリアした。その1分後、ナインゴランのミドルシュートは相手に触れて、あり得ない軌道を描いて決まる。ベルギー、先制。


 結局、このナインゴランのゴールが決勝点となった。ベルギーはスウェーデンに辛勝し、グループステージを2位通過。ベルギーサポーターが「祭りはどこだ? 祭りはここだ!」と勝ちどきを上げる。これが代表最後の試合となったイブラヒモビッチがロッカールームへ引き上げようとすると、そっとウィルモッツ監督が健闘をたたえに近寄り、2人はガッシリと抱き合った。

中田徹
中田徹

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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