
レース参加者、関係者、観客、そしてテレビ中継を見た人々に至るまで、誰にも忘れることができないであろう「第84回ル・マン24時間レース」から一夜が明けた。こちらフランスでは現在欧州サッカーの頂点を決める「EURO2016」を開催中とあって、世間の話題はサッカーに集中しがちだ。
そんななか、今回のル・マン24時間レースは本当にドラマチックだったこともあり、フランスの新聞各社も大きく記事を取り扱っている。そして、例年、この日のフランスの新聞で注目すべきは、各自動車メーカーが出す広告だ。昨年はポルシェが17年ぶり17回目の総合優勝を決めると、一緒に戦ったアウディやトヨタが、ポルシェを称える文言を添えて広告を打った。もちろん、ほかの誰かが勝利しても、その勝者を称える広告が準備されている。

しかし、今回は少し事情が違った。まずフランス最大のスポーツ新聞である『レキップ』紙で確認すると、ポルシェは総合優勝を祝う広告なのだが、ライバルのアウディは「あと364日……」とすでに来年に向けて動き出しているという自社イメージにつながる広告が打ち出された。あまりにドラマチックな終わり方だったので、事前に準備していたなかでも、もっとも無難なものが選ばれたのだろう。
健闘を称えるポルシェとアウディ
それを感じさせる動きはポルシェの公式ツイッターにあった。彼らは日本時間の6月20日午前1時48分、つまりフランス時間では15時のレース終了からわずか3時間48分後に、大きく映し出されたトヨタ5号車の写真と共にこんなメッセージを添えた。
「Competed together for 24 hours. Head to head for 24 hours. Gained our respect forever. #LEMANS24」
「24時間を一緒に戦った。接戦の24時間だった。われわれの永遠の敬意を添えて」と。
さらにポルシェから遅れること約2時間後、今度はアウディスポーツの公式ツイッターが、一枚の写真とともにポルシェの勝利を祝うツイートをした。しかし、祝辞に添えられた写真には、アウディのマシンを追うトヨタの5号車と、一言のメッセージが添えられていた。
「IN LE MANS, EVERYONE WIN ONE THING: RESPECT.」
「ルマンでは、誰もがひとつの勝利を得た。“敬意”だ」と。
アウディやポルシェがトヨタに最大級の賛辞を送ったことは、前回のコラムで書いたが、今回の24時間レースはライバルの2社が、SNSなどのいま得られる手段を最大限に活用して、このレースを人々の記憶に留めてもらいたいと願っているのではないだろうか。それほどに、素晴らしいレースだった。レースにおける、喜び、苦しみ、悲しみ、そして次への希望と、すべての感情や言葉が詰まったレースだったと思う。