2016年版トヨタのマシンの特徴は? ル・マン制覇へ、電気系統に大きな変化

田口浩次
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提供:トヨタ自動車

PUから一新し、8MJ搭載可能に

TMG代表の佐藤俊男氏 【田口浩次】

 この大容量のエネルギーを1周ごとに使っているのがTS050だ。ただし、誰もが知っているように、電力を使うためには、まず電気をバッテリーに蓄えなければならない。TS050の場合、ブレーキング時に発生する熱エネルギーを電力に変換し、それをバッテリーに充電している。じつは、昨年TMG(トヨタのモータースポーツ活動ヨーロッパ拠点)関係者にインタビューしたところ、当時6MJの容量を選択した理由として、「ブレーキングだけでは8MJの電力を回生できない。その分重くなるので6MJを選択しています」と聞いた。
 
 トヨタと同じ8MJを採用しているポルシェの場合、2つあるモーターのうち、ひとつをパワーユニット(PU)に使用していて、エンジンからの排気による熱エネルギーから回生しているので、1周の間に8MJをフルに充電できる。一方のトヨタは2つあるモーターは前後ブレーキと連携しているので、排気エネルギーを電気に変換することはできない。1周の間に回生できるブレーキ区間に変わりはないはずなので、昨年まで6MJ分だったブレーキ回生が8MJを搭載できるようになった点が疑問だったが、TMG代表の佐藤俊男氏と、ドライバーのアンソニー・デビッドソン、中嶋一貴がそうした疑問に答えてくれた。
 
「そうですね、たしかに昨年のマシンTS040は6MJバッテリーを搭載していました。そして、昨年のマシンのままであれば、8MJを搭載しても回生が足りず、重量が重くなる不利な点が増えたと思います。しかし、今年のマシンはパワーユニットから一新した、まったくの別物です。すべてを見直し、さまざまな部分が進化したことによって、具体的にどうやっているかは言えませんが8MJのバッテリー容量分を回生できるようになりました。ただし、簡単ではないので、本当に色々細部にまでいちから見直し、回生効率を徹底的に高めました。もちろん、ポルシェとトヨタはモーター搭載位置が違うので、トヨタの方がエネルギー回生は難しいかもしれません。相手の中身まではわからないので、推測に過ぎませんが」と佐藤代表。

ドライバーにも快適なマシンに

「勝利の女神に微笑んでもらうことも大切」と過去の経験をもとに抱負を語る中嶋一貴 【田口浩次】

 こうして、車両を一新したと言ってもよい車両だが、ブレーキングポイントが変わったり、なにか変化があったのか。また、6MJから8MJになったことでドライバーに変化はあるのか、それには5号車のアンソニー・デビッドソンが答えてくれた。
 
「TS040からTS050への変化はドライバーにとっては、本当にストレスが減少する大きな違いがあります。それは、エンジンノイズの低下です。昨年までのV8エンジンは、コクピット内のエンジン音が大きいものでしたが、TS050に搭載しているターボエンジンは本当に音が静かです。

 ノイズというのは、無線交信など、さまざな部分に影響しますから、ドライバーとしては、本当にドライビング環境が快適といえるほどに改善されました。6MJから8MJへの変更は、ドライバーとしては、大きな違いはありません。より効率的に回生するためのブレーキングは昨年同様ですし、昨年は6MJを100パーセント回生し切っている場面もありました。今年はそれが8MJとなったことで、よりハイブリッドシステムからのパワーを長くマシンに使用できます」とアンソニー。
 
 とはいえ、昨年までの答えと少し違う気がしたので、中嶋一貴に補足してもらった。
 
「そうですね、TS050での8MJ分のエネルギー回生は問題ないと思います。レーシングラインというか、ブレーキングポイントも昨年と大きく違う点はありません。それが可能になったのは、やはりモーターの進化が大きいのではないでしょうか。モーターが進化したことで、回生もよりできるようになり、8MJ分のエネルギー回生も問題なくなったと思います。そして、僕は2014年に悔しい思いをしていますが(トップ走行中も夜中にマシントラブルでリタイア)、ここで勝つためには勝利の女神に微笑んでもらうことも大切ですね」と中嶋一貴が、ひとつの答えを明確に答え、今年の意気込みも語ってくれた。

 記者会見の最後、TMG佐藤代表は世界のメディアに向けてこう発言した。

「僕たちの目標はもちろん、他の競合相手と同じです。決してゴールだけが目標ではありません。そのための準備をし、戦う体制を整えてきました」と、直接的な言葉で”優勝が目標”と大言することなく、心のうちに秘めた自信をのぞかせた。

 まもなくスタートする「第84回ル・マン24時間レース」。トヨタ自動車ではLINE LIVEにて特別番組を特別放送する。AndroidもしくはiPhoneにアプリをダウンロードすることで無料で楽しめるので、ぜひとも歴史的なスタートの瞬間を見てもらいたい。

TMG代表・佐藤俊男氏プロフィール

1987年トヨタ自動車入社。初年度よりモータースポーツ部門に配属されて、最初の大きな仕事は88年にル・マンに出場したトムス・88Cの耐久エンジンの試験担当。その後、92年にル・マンに挑戦したTS010のV型8気筒3500ccエンジン部品を設計し、TS010が出場した92年と93年のル・マンではTS010のレースエンジン担当エンジニアとしてチームに参加するなど、エンジンエンジニアとしての経歴を重ねた。その後、ル・マンの世界からアメリカのCARTレースのコーディネーターを担当した後、日本へ帰国し、量産型エンジンの設計を5年間担当した。その後、再びモータースポーツ部門へ戻り、F1の先行開発に携わった後、04年にF1の本拠地であるドイツ・ケルンにあるTMGへ移動し、F1エンジン開発のコーディネーションを担当した。F1での効率的な開発ノウハウを身に着けた後、再び日本へ戻ると、トヨタの肝とも言える量産車向けハイブリッドシステムの開発室で活躍。レクサスGS450hやレクサスIS300h、さらにこの先発売が予定されているLC500hなどのハイブリッドシステムに携わった。7年間のハイブリッドシステム開発室在籍の後、15年春に木下美明氏の後任としてTMG代表に就任した。

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