開幕2戦で露呈したイングランドの悪癖 英国対決を制すも、前線の編成は定まらず

田嶋コウスケ

試合前からダービー熱が高まる

ユーロで実現したイングランド対ウェールズの“英国対決”。国内は試合前から盛り上がりを見せた 【写真:ロイター/アフロ】

「うちの夫が今週、有休をとりました。しかも、『家事は協力できないから』って」

 そんなテキストメッセージを英国在住の友人から受け取った。彼女の夫は、フットボールを愛してやまないイングランド人。もちろん、お目当ては10日から開幕しているユーロ(欧州選手権)だ。

 イングランド代表の初戦となった6月11日のロシア戦は土曜日開催だからよかったものの、イングランド対ウェールズの“バトル・オブ・ブリテン”は平日木曜の午後2時キックオフ(英国時間)。どうやら彼は万全の体制を敷いてユーロを自宅で満喫したかったらしい。英国の公共放送BBCによると、試合が行われた16日は有給休暇を申請した人が多かったという。

 それほど注目を集めた英国ダービーの前には、現地メディアの紙面も盛り上がっていた。同じ英国でも出版地域によって紙面構成が異なる英紙『サン』は、イングランド版とウェールズ版でスポーツ面のトップを変えてきた。ウェールズ版の『サン』は、紆余曲折を経て58年ぶりに国際ビッグトーナメントに出場するウェールズ代表としての決意を「情熱と誇り、そして涙──。このシャツのために戦う」と語ったギャレス・ベイルをトップに。一方、イングランド版の『サン』は、同代表の愛称であるスリー・ライオンズをモチーフに、獅子の鬣(たてがみ)と牙をウェイン・ルーニーの写真に合成して隣国との対決を煽っていた。

 しかもこの一戦の前には、両軍の選手と監督が舌戦で火花をちらした。火付け役はベイルで、「俺らはイングランドよりも情熱と誇りがある」と挑発。ジャック・ウィルシャーが「イングランド代表の選手に情熱がないと感じたことなど1度もない。ウェールズ? あんまり好きじゃないな」と応じれば、ロイ・ホジソン監督も「おしゃべりはここまで。勝負はあくまでもピッチの上で」とベイルのコメントに一線を置きながらもけん制していた。

 それでも、普段は物静かな青年として知られるベイルは“口撃”を止めず、「イングランド代表の選手で、ウェールズのスタメンに入れる選手? 誰もいないよ」と強気な姿勢で心理戦を止めようとしなかった。タブロイド紙を中心に英メディアも両軍のやり取りを追い続け、ダービー熱はいや応なしに高まっていた。

途中出場のバーディーとスタリッジがゴール

後半開始から投入されたスタリッジ(右)とバーディー(中央)。2人のゴールでイングランドは逆転に成功した 【Getty Images】

 こうして迎えた102回目のイングランド対ウェールズのダービー。国際ビッグトーナメントでは初めての顔合わせとなった一戦は、試合を通じて64%のボールポゼッションを記録したイングランドが敵陣に押し込む展開が続いた。7分にはカウンターからラヒーム・スターリングが決定機を迎えるも、シュートは枠外。その後もイングランドがチャンスをつかんだが、いずれもモノにできなかった。試合が動いたのは42分のことで、直接FKからベイルが左足を一閃──。BBCが「セーブできたはず」と4点の低評価(10点満点)をつけたGKジョー・ハートの対応には難があったが、それでも約30メートルの距離からネットを揺らしたベイルの勝負強さが際立った。かくして、チャンスらしいチャンスのなかったウェールズが、1点のリードを奪って前半を折り返す。

 試合後、クリス・コールマン監督が「イングランドにポゼッションを奪われたが、私としては心配していなかった」と語ったように、ユーロ予選でも強豪国には堅守速攻で勝ち点を重ねてきたウェールズとしては、ここまでの展開は狙い通りであった。しかし、イングランドの交代策によって試合の流れが変わる。グループリーグ初戦から本調子でなかったハリー・ケインとスターリングをハーフタイムで下げ、ジェイミー・バーディーとダニエル・スタリッジを同時に投入。両者はそのまま4−3−3のセンターFW(ケイン→バーディ)と左FW(スターリング→スタリッジ)に入り、「前半と同じプレーをするように」(バーディー)と指示を受けてピッチに立った。 

 この交代策で攻撃に厚みが生まれたイングランドは、攻勢をさらに強める。56分にDFアシュリー・ウィリアムズのクリアミスに反応したバーディーが同点ゴールを決めると、後半アディショナルタイムにスタリッジが逆転弾──。とくに、スタリッジを起点にデル・アリ→バーディーとでワンタッチパスで崩し切った決勝ゴールは、この試合でイングランドが見せた数少ない効果的な崩しであった。対するウェールズは、最後の最後で力尽きてしまった。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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