日本馬の鬼門に沈んだ武豊エイシンヒカリ 奥野庸介のプリンスオブウェールズS回顧

JRA-VAN

柔軟な路盤と後半の上り坂がスタミナを奪った

欧州でも大きな注目を集めたエイシンヒカリのプリンスオブウェールズS参戦だったが、馬場と難コースが堪えたか最下位の6着に終わった 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 レーシングポスト紙の1面を飾った「モンスター・フロム・ザ・イースト=怪物、東より来たる」の惹句、そのままにオッズは単勝1倍台の大本命で欧州2戦目を迎えたエイシンヒカリ。スウィンリーボトムと呼ばれる窪んだコーナーを抜けたあたりでは、鞍上の手応えも良く、イスパーン賞の再現が脳裏にちらついた。しかし、水分を十分に含んだ芝に隠された柔軟な路盤と後半に延々と続く上り坂が、エイシンヒカリのスタミナを奪っていった。

 結果は勝ったマイドリームボートから約4馬身半差の6着。日本馬にとって鬼門となっているアスコット競馬場での優勝はまたもお預けとなった。

良馬場の基準タイムより6秒以上遅い勝ちタイム

 武豊騎手とともにポンとゲートを飛び出したエイシンヒカリは、5頭を引き連れるように先頭に立った。芝丈がおよそ10cmと長く、アンジュレーションのきついアスコットを初見で走るのは相当に難しい。前走経験したシャンティイ競馬場とは、まったく異質の馬場で集中力が削がれる。それでも、最後は前走のように地力で突き放してくれるものと信じて日本からやってきた怪物の姿を追った。

 しかし、残り300mで外からR.ムーア騎乗のファウンドにかわされると、形勢が悪くなった。一呼吸遅れて伏兵マイドリームボートが馬場中央を追い上げて、2頭が内外離れてゴールした。

勝ったのは伏兵マイドリームボート 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 イスパーン賞でエイシンヒカリに14馬身以上話されて5着に敗れたマイドリームボートの変身は道悪の助けなくしてはならなかっただろう。ロイヤルアスコットで嬉しい初勝利となったA.カービー騎手の「無欲」が吉と出た。勝ち馬と2着ファウンドの着差はクビ。それから3馬身半差の3着にL.デットーリ騎手のウエスタンヒム。気持ちが切れたエイシンヒカリは最後にゴールを過ぎた。

 ソフトと発表された芝2000mの勝ちタイムは2分11秒38。アスコットの良馬場の基準タイムより6秒以上遅かった。

欧州スタイルの競馬になったのも痛かった

 エイシンヒカリの状態は良かったと武豊騎手はコメントしている。敗因の大きくは道悪によるものではあるが、スタートしてからしばらく続く下りへの意識もあったのか、主導権を握りながらも後続を引き離す展開に持ち込めず、馬群が一団となって進む欧州スタイルになってしまった。欧州馬は前の馬を射程圏に入れたら、そこからが強い。彼らが嫌がる競馬が出来なかったことも痛かった。欲目でなく良馬場だったら、違った結果になっただろうが、それは詮無いこと。暫しの休養を取って再び、エイシンヒカリらしさを発揮してもらいたい。

再び武豊とエイシンヒカリが欧州競馬を驚かせる姿を見たい 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 勝ったマイドリームボートはミスタープロスペクター系のマイナー種牡馬ロードシャナキル(その父スパイツタウン)を父に持つ4歳牡馬で通算成績は14戦6勝。これまで道悪でG3を2勝していた。父は2008年から3年連続でロイヤルアスコット開催の重賞に挑み、手が届かなかった。マイドリームボートはその最初のG1勝ち馬となって、父の夢を叶えた。
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