全国大会はコールドなしと実力伯仲 地方リーグの躍進目立った春の大学野球

松倉雄太

初出場の中京学院大は開幕戦で目標だった神宮1勝を挙げると、勢いに乗って全国の頂点に駆け上がった 【写真は共同】

 第65回全日本大学野球選手権記念大会は、6月6日から12日まで行われ、中京学院大(東海地区大学野球連盟)が初出場で初優勝を飾った。1回戦から決勝の全26試合を通じてコールドゲームは0と実力伯仲だった今大会を振り返っていきたい。

中京学院大の目標は「1勝」

「信じられない。ひとつ勝てればと思っていた」

 優勝した中京学院大の近藤正監督や多くの選手がこのフレーズを口にした。日本文理大(九州地区大学野球連盟・北部代表)との開幕戦。初回に1番・戸田勇次(4年・大垣日大高)が三塁打を放ち、3番・吉川尚輝(4年・中京高)が先制タイムリー。これで勢いに乗り、エース・柳川優太(4年・大垣日大高)が7安打完封。最高の勝ち方で目標だった全国1勝を手にした。勢いは翌日の2回戦でも続く。吉川が5打数4安打と活躍し、先発した熊岡脩平(4年・松川高)が6回3安打無失点と好投。「持ってきた服は2泊3日分」(近藤監督)の予想を超える2勝目を挙げた。

安定感抜群の柳川が優勝の原動力

5試合に登板し、3完投4勝を挙げて優勝の原動力となった中京学院大・柳川。最優秀投手賞を受賞した 【写真は共同】

 桐蔭横浜大(神奈川大学野球連盟)を破った翌日は試合がなく、準々決勝で対戦することになる亜細亜大(東都大学野球連盟)と富士大(北東北野球大学連盟)のゲームをゆっくり観戦。エースの柳川は相手打者の特徴を分析し、準々決勝の亜細亜大戦1失点好投へとつなげた。

 開幕戦は、勝つと日程が一番楽になる。これは春のセンバツで優勝した智弁学園高や、今大会で決勝に進出した中央学院大(千葉県大学野球連盟)にも当てはまる。準々決勝の後に休養日があるのも幸いし、万全の状態で準決勝と決勝へ備えた。準決勝の奈良学園大(近畿学生野球連盟)戦の先発に熊岡を起用し。6回途中まで粘ったことも大きかった。終盤に疲れが見えた相手エース・鈴木佳佑(4年・履正社高)に対し、リリーフだった柳川は元気一杯で、3回1/3を無失点に抑えた。決勝の中央学院大戦でも2点に抑え、結局全試合で2失点以内だった柳川の安定感が、優勝への原動力となった。

奈良学園大は3年生の打棒光る

開幕戦で毎回の14奪三振・完封勝利を挙げた中央学院大・石井。準々決勝で右ひじ違和感から離脱したものの、投手陣全体で石井不在をカバーした 【写真は共同】

 準優勝の中央学院大はエース・石井聖太(2年・中央学院高)が初戦で第一工業大(九州地区大学野球連盟・南部代表)を2安打14奪三振完封。だが準々決勝で右ひじに違和感を覚えて初回で降板。肉離れと診断され、準決勝以降はマウンドに上がれなくなった。「悔しそうにしていた。宿舎近くの公園で、ケガをしたから見えてくるものがある」と石井に声をかけた左腕・田辺樹大(4年・岩倉高)が準決勝と決勝で先発。リリーフした臼井浩(4年・光明学園相模原高)、準々決勝で緊急リリーフをした小串一愛(3年・岩倉高)を含め、投手陣全体でエースの離脱をカバーした。

エースで主将の鈴木の奮闘もあり、初の4強進出を果たした奈良学園大。3年生の4番・宮本は準々決勝でサヨナラ満塁本塁打を放つなど2アーチ。来年のドラフト候補として注目される 【写真は共同】

 ベスト8の壁を初めて破り、準決勝まで進出した奈良学園大は、エース兼主将の鈴木佳佑が3試合で完投。1回戦で10奪三振、2回戦で12奪三振と存在感を見せ特別賞を受賞。「球数が多くなってしまった」と話したように立ち上がりにまだまだ課題があるが、将来はプロに進んでほしい投手。また2試合連続本塁打を放った3番・宮本丈(3年・履正社高)、右打ちの打球が光る5番・村上海斗(3年・北照高)は来秋のドラフト候補として注目されそうだ。

 同じくベスト4で涙をのんだ上武大(関甲新学生野球連盟)は1番・島田海吏(3年・九州学院高)の走力が目を引いた。相手投手が何度も牽制するため、出塁するだけで大きな武器となる。ただ、島田が出塁できなかった準決勝では攻撃が機能せずに敗れた。この点が秋へ向けてのチームの課題となる。

東京六大学、東都は決勝に残れず

2回戦で優勝候補の一角・明治大に競り勝つなど準々決勝に進んだ関西国際大。3試合すべてが延長タイブレークと粘りを見せた 【写真は共同】

 3試合全てで延長タイブレークを経験した関西国際大(阪神大学野球連盟)。「リーグ戦ではタイブレークはなく、初めての経験」と鈴木英之監督は話したが、「(相手の)打順を見てから投手を代えてもいいですか」と球審に質問するなど、間の取り方は絶妙だった。さすがに3試合目のとなった準々決勝では、自チームが誰から攻撃を始めるかが読まれ、対策を立てられてしまったが、タイブレークこそ時間の使い方が大事になると教えてくれたように思えた。

 大学選手権では2011年から採用されたタイブレーク。今回の関西国際大のように初めて経験したチームはたくさんあるが、先に実施されている社会人野球のように大学でも慣れてきている傾向にある。それでもDH制がない秋の明治神宮大会では投手が攻撃に参加するため、大学選手権とは違った難しさが出てくるのは否めない。タイブレークはDH制を採用する野球に適したルールであると言えるだろう。

 地方リーグ勢が躍進し、東京六大学、東都、首都、関西学生のいわゆる名門リーグが全て決勝に残れなかったのは初めて。中でも明治大は関西国際大との初戦(2回戦)、亜細亜大は準々決勝で敗れ、2年ぶりに東京六大学と東都がベスト4に残ることができなかった。秋の明治神宮大会は、両連盟にとって威信をかけた戦いとなる。
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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