尻上がりだったラニの米3冠挑戦 奥野庸介のベルモントS回顧

JRA-VAN

日本調教馬として初の入着

日本馬として初めて米3冠皆勤を果たしたラニと鞍上の武豊 【photo by Tomoya Moriuchi】

 3冠最後のベルモントSは、7番人気の伏兵クリエイターが直線で2番手から抜けだしたデスティンをハナ差かわして優勝。4月のアーカンソーダービーを制した芦毛馬が、13着に敗れた前走のケンタッキーダービーからの巻き返しに成功した。

 良馬場の勝ち時計は2分28秒51。これは昨年のアメリカンファラオの2分26秒65より約2秒近く遅いが、それでも、ここ10年で2番目に早いタイムである。2着から1馬身半差の3着に武豊騎手騎乗のラニが健闘。日本調教馬で初めて、米国3冠競走で入着を飾った。3着馬まではいずれも芦毛馬だった。

 ケンタッキーダービー2着馬で2冠目のプリークネスSを制して、単勝2.45倍の断然人気に推されたエグザジャレイターは、中団追走も直線で脚が上がって11着に敗退。距離の壁に泣いた。ベテランのM.スミス騎乗で2番人気に推されたサドンブレイキングニュースは9着、前走のプリークネスS4着で3番人気のストラディヴァリは勝ち馬から約1秒差の5着で競馬を終えた。

突き抜けられなかった最後の直線

ラニは大外から懸命の伸びを見せるも及ばなかった 【photo by Tomoya Moriuchi】

 勝ったクリエイターは、ラニと同じ米チャンピオン種牡馬のタピット産駒。大外13番枠からの発走も、現在ニューヨーク地区のリーディング騎手でこのコースを熟知するI.オルティスJr騎手の巧みなハンドリングで、徐々に馬を内に寄せて距離損の少ない競馬をしたことがハナ差の勝利を呼び込んだ。

 もうひとつ勝利に貢献したのは、同馬主、同厩舎が用意したゲティスバーグがつくった緩みのない流れ。これに乗じて向正面で6番手にポジションを押し上げたクリエイターは、残り150mで最内を突こうとして前が詰まったガヴァナーマリブとストラディヴァリの間にできた隙間を突いてデスティンを追撃。前々走のアーカンソーダービーで見せた、立木をなぎ倒す勢いの豪脚を大舞台で爆発させた。

 クリエイターは一昨年のキーンランド9月セールで44万ドル(当時の交換レートで約4700万円)で落札された高馬。その末脚はメンバー中屈指だったが、不利な内枠を引いて競馬にならなかったケンタッキーダービーの惨敗で、人気の盲点になっていた。

 2着のデスティンは2番枠から好スタートを切って2番手からの競馬と、正攻法で攻めた結果の惜敗。今回は勝ち馬の決め手にしてやられた。

 クリエイターと同じく後方から徐々にポジションを上げたラニは本命馬エグザジャレイターをマークし、直線で馬群がほどけてから前2走のように外目をついて前を行く2頭を追撃したが、突き抜けるまでには至らなかった。

内容は一戦ごとに向上

ラニとともに米3冠レースへ挑戦した武豊。日本随一のジョッキーにも、新たな刺激となったに違いない 【photo by Tomoya Moriuchi】

 昨年はアメリカンファラオの3冠成就で大団円を迎えたベルモントSだが、今年は3冠、それぞれに勝ち馬を変えて終わった。ラニの米国遠征はこれで最後になるが、米国での競馬は一戦ごとに内容を良くしている。

 今年の米国3歳牡馬戦線は、ケンタッキーダービー馬でベルモントSは回避したナイキストとクリエイターがアタマひとつだけ抜けているが、ラニも差のない2番手グループにいる。“真夏のダービー”の異名を取る8月のトラヴァースSあたりで、もう一度、その走りを見てみたかった気もする。

 いずれにせよUAEダービーの勝利から米国に渡り、3冠を見事に完走したラニとオーナーをはじめとする関係者各位のチャレンジスピリットに敬意を表したいと思う。
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