武豊エイシンヒカリ、圧勝劇で主役の座へ 本場・英国競馬の歴史に名を刻めるか?

JRA-VAN

「フランケル以来の衝撃」

イスパーン賞では10馬身の大差勝ち。エイシンヒカリは世界に衝撃を与えた 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 あの結果を誰が予想することができたであろう!? 5月24日に行われたイスパーン賞でのエイシンヒカリの圧勝劇のことである。ヨーロッパ競馬界では「フランケル(2010〜2012年にかけて英国で活躍した最強馬。生涯成績は14戦全勝。14戦で2着に付けた合計着馬身は脅威の76馬身1/4)以来の衝撃」と言われたほどインパクトが強かった。もちろん、乗っていた武豊騎手でさえ、ここまでの圧勝は予想していなかったとのことだ。

 レースを振り返ってみると、本来ハナを奪って逃げるはずのエイシンヒカリだが、この日は外枠から好ダッシュで飛び出したヴァダモスに被せられて2番手に甘んじる形でスタート。その際には強引に前に入られたこともあって、頭を上げる素振りを見せるなど、このまま自分の形に持ち込むことができずに、厳しい展開になるのではと思われた。それでも道中は何とか折り合って2番手から進んで行くと、直線の半ばで前を行くヴァダモスの外へスッと持ち出して先頭へ。そこからが衝撃のはじまり。武豊騎手が軽く気合を入れると、一気に加速して瞬く間に後続を突き放す。ゴール板が近づくにつれて差は広がるばかりで、終わってみれば10馬身の大差勝ち。世界の競馬界に衝撃が走った瞬間だった。

 専門家たちは口をそろえて「日本とは異なる力のいる馬場をこなせれば何とか上位に入れる」などと公言していたが、それはエイシンヒカリにバカにするなと怒られてしまう。馬場適性など関係ないどころか、前日からの雨でかなり重たい馬場でも全く問題にしていなかった。9頭立てと少頭数ではあったが、破った相手も昨年の仏ダービー馬で凱旋門賞でも3着に好走したニューベイ、仏G1のガネー賞を勝っているダリヤンという強豪だったのだから脱帽だ。

日本以上に高いヨーロッパでの期待

プリンスオブウェールズSでは、アスコットでの騎乗経験がある武豊(右から3人目)の手腕が鍵となりそうだ 【photo by Yasufumi SAWADA】

 本来、ヨーロッパの競馬は力のいる馬場ということもあってスローペースになることが多いが、今回は予想以上の速い展開。さらに馬場状態は最悪ということで、他馬は直線を迎える前に脚を使い切ってしまった感もあった。その中でエイシンヒカリだけは、日本でのスピード競馬を経験してきたことから、難なく速い流れに乗れたことは大きい。それに加えて馬場適性があるとなれば、まさに鬼に金棒。並みの強豪馬では歯が立たないのは当然とも言える。そうなると次のプリンスオブウェールズSでも期待が集まるのは必然だ。

 現在のところ、プリンスオブウェールズSには、イスパーン賞で対戦したニューベイ、昨年の同レース2着のザグレイギャッツビー、2015年のBCターフの勝ち馬・ファウンドなどの強豪が参戦してくる。しかし、ニューベイを物差しに考えると、このメンバーでも全く見劣りしないどころか勝機の方が高い感じさえする。現に、英国のレーシングポスト紙が出しているサラブレッドランキングではエイシンヒカリが世界1位。英国大手の各ブックメーカーのプリンスオブウェールズSのオッズでも全て1番人気に推されている。さらには、先の話になってしまうが凱旋門賞(未登録だが)のオッズでも1番人気となっているのだから、日本以上にヨーロッパでの期待の高さもうかがえる。

 また、逆にエイシンヒカリにとってのマイナス点を挙げるならアスコットコースの起伏だろう。直線を1コーナーから真っ直ぐに見ると、登ったり下ったりと激しい起伏が一目瞭然なのだが、自らがペースを作る形に持ち込んでも、この特殊コースで脚を使い切ってしまう可能性も出てくる。そこは何度もアスコットでの騎乗経験がある武豊騎手の手腕が鍵と言うことになりそうだ。

 それにしても日本馬が伝統ある英国競馬の大レースで1番人気に推されるとは誰も想像していなかったことだろうが、それが現実のものとなり、さらにはそこでの勝利も手の届く所まで来ている。エイシンヒカリと武豊騎手の手で本場・英国競馬の歴史にその名を刻んでもらいたい。

text by Kazuhiro Kuramoto
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