モーリス自滅に追い込んだ田辺の絶妙逃げ 3年2カ月ぶりの復活星! ロゴタイプ安田V
「自分が行けば人気薄だからノーマークになるだろう」
勝利の立役者・田辺、歓声に応え満面の笑顔が弾けた 【中原義史】
「強い馬がいましたし、それも1頭じゃなくて何頭もいると自分は思ってました。ほかの馬と同じポジションでは切れ負けするかなと思いましたし、せっかくスタートセンスのいい馬なので、周りがけん制してくれる流れになればと思っていたんです」
田辺がレース前の心境をこう明かした。田中剛調教師もレース前、ハナに行ってほしいと考えていたという。「道中逃げて、後続を待たずにゴール板まで駆け抜けるイメージ。負けてもいいから力を出し切る競馬をしてほしい」――トレーナーからそうアドバイスされ、これでジョッキーの気持ちもほぼ固まった。
“ほぼ”というのは、田辺自身は何が何でもハナ! というわけではなく、あくまで周囲の出方次第という条件付だったという。だが、出走全12頭中で“逃げ”に対する意識が一番強かったのが田辺だったのだろう。また、ロゴタイプにはそもそもゲートの出の良さとダッシュの速さという天性の武器がある。実はもう1頭、1枠1番のクラレントも先手を取りたかったみたいだが、「行きたかったけど行けなかった。前の馬も速かったからね」と鞍上の小牧太はロゴタイプのスタートダッシュにお手上げの弁。これにより、スタートから1ハロンもすれば隊列はすんなりと収まったのだった。
先行争いがなかったことで、当然のようにペースは落ち着く。入りの3ハロン35秒0は、マイルGI戦としては明らかに遅い。
「自分が行けば人気薄だからノーマークになるだろうと思っていました。馬の気分が良ければバンバン行っちゃおうかなとも思っていたんですが、ピタッと落ち着いて競ってくる馬もいなかったのでスローになりましたね。でも、わざわざ自分からペースを落としていこうとは思っていませんでした」と田辺。結果的に生まれたこのスローペースに、モーリス、リアルスティールは苦しめられた。田辺がこの場面をさらに振り返る。
「モーリスが2番手にいるというのは気づいていましたが、引っ掛かっている馬というのはほかの馬と馬体を並べたくないもの。ですから、モーリスも僕の馬に並ぶことなく、ずっと抑えててくれていたので、プレッシャーも何もなく単走追い切りのような感じでしたね」
とどめを刺した馬場を読む“目”
ロゴタイプ(右)は最後の直線でただ1頭、内ラチ沿いを選択した 【中原義史】
「僕としては、内が完全にダメだとは思ってませんでした。今日の流れからして確かに外を通った馬がよく勝っていましたが、内から差を詰めてくる馬もいました。だから、内へ行くのは自分から選択しました」
モーリス以下の後続勢が最後の直線に向いたとき、そろって内ラチから4、5頭分外へと進路を取っていくのに対し、田辺ロゴタイプは迷うことなく最内ピタリ。このコース取りでさらに差を広げ、鞍上の読みどおり最内の馬場に突っ込んでも脚が鈍ることはない。ここに影も踏ませぬ逃走復活劇が完結したのだった。
「皐月賞馬が勝てていないということで厩舎のみなさんにはプレッシャーがあったと思います。今回で結果が出て本当に良かった」と殊勲の田辺。一方の田中剛調教師もこの長いトンネルを振り返りながら「ロゴタイプは本当に一戦、一戦、一生懸命走ってくれるんです。今回も本当によく頑張ってくれました。そしてこの馬らしい競馬をしてくれた田辺君に感謝したい」と、感無量の表情で愛馬の底力と田辺の騎乗を称えていた。
「次は中京記念かなと思っていたので」
再び上昇ムードに乗ったロゴタイプ、秋のマイル〜中距離路線での大暴れが楽しみだ 【中原義史】
「どこかで必ず勝ってくれるとは思っていましたが、まさか安田記念とは思っていませんでした。ビックリしています。次は中京記念かなと思っていたので、この後のローテーションを考え直さなきゃいけないですね(笑)」(田中剛調教師)
そういうわけだから次走に関しては未定だが、マイル〜2000メートルの舞台で再びロゴタイプの先行力が猛威を振るう、そんな秋シーズンが待っていることだろう。
(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)