常勝西武もいまや幻影…再び黄金期を迎えるために必要なこと

中島大輔

1980年台から90年台前半に8度の日本一に輝いた西武だが、現在は2008年から日本一に遠ざかっている。ことしも前評判は高かったものの、現在は借金4、首位ソフトバンクを11ゲーム差で追う4位とBクラスに低迷している 【写真は共同】

 20年以上前に冠せられた二文字がいまだにイメージとしてついて回るほど、当時、その球団は無類の強さを誇っていた。1982年からの13年間で8度の日本一、11回のリーグ優勝を達成。スタメンには石毛宏典、辻発彦、秋山幸二、清原和博、伊東勤ら1番から9番まで各々の役割を任された一流選手が並び、チーム一丸となって堅実かつ鮮烈な野球で来る日も白星を積み重ねる。

 常勝西武――かつてそう言われたチームが、2008年を最後に日本一から遠ざかっている。今季は前評判が高かったものの、5月29日終了時点で4つの借金を抱え、首位・福岡ソフトバンクと11ゲーム差。一時期より状態を上げてきたとはいえ、常勝のイメージとは乖離する戦いぶりを繰り広げている。

かつてはリーグ有数の守備力に綻び

 それを最も顕著に表すのが、チームの失策数だ。年間38失策で日本最少記録を更新した1991年を筆頭に、85年から96年代までは例年50〜60台のエラー数とリーグ有数の守備力を誇っていた(87年は70、89年は77)。

 ところが、今季はすでにリーグ最多の42失策を記録(最少はソフトバンクの20)。リーグ最多の91失策を犯した昨季に続き、守備を立て直すことができていない背景について、今季作戦コーチに就任した橋上秀樹コーチは「去年からメンバーが変わっていないから、急には変わらないと思う」と話している。

 しかし、問題の根は深いところにある。そう指摘するのが、92年から98年まで現役選手として西武に在籍し、08年から11年までコーチを務めた熊澤とおる氏だ。

「根本陸夫さんが西武の礎をつくられて、守備を基本から丹念にやってきました。たとえばボールを下からコロコロ投げて、それを捕って投げる練習です。そうして守備の基礎、さらに体の筋肉づくりにつながるわけですが、僕が最後の生き残りで、以降は守備を教わらなくなりました。松井稼頭央(現・東北楽天)はスローイングのエラーが多かったにもかかわらず、そこはきちんと教えられないで、コーチが天才的なところだけに拍手喝采を送るようになったわけです」

 今季のショートでは開幕から外崎修汰、金子侑司という若手が併用された。両者は高い身体能力を誇る一方、グラブさばきやスローイングなど基礎力が不十分で、ミスを繰り返した。外崎は5月18日に登録抹消され、金子は同14日からライトで起用されている。

 代わってショートに入った鬼崎裕司が守備を引き締めていることもあり、チームは5月15日の北海道日本ハム戦から29日のオリックス戦まで11試合続けて無失策を記録。この間、8勝3敗の好成績だ。中島裕之(現オリックス)が12年シーズン終了後に退団して以降、レギュラー不在のポジションで若手を育成しようとする起用意図は理解できるものの、守備を疎かにした首脳陣の配置がチームの低迷を招いた一因とも言える。

多彩な攻撃力はなく本塁打頼み

 打撃に目を移すと、田邊徳雄監督から繰り返されたのが「あと1本が出ない」という言葉だ。たとえば5月22日のソフトバンク戦では序盤に本調子でなかった武田翔太をつかまえ切れずに逆転負け。この日の得点は本塁打2本によるもののみだった。

 かつて常勝だった西武は走者をバントで送り、進塁打、足を絡めた攻撃、長打と多彩な攻めを繰り広げていた。しかし現在、上位打線には打力のある打者が並ぶ反面、ベンチのサインで仕掛けて得点を奪うシーンは多くない。

 今季ここまでの盗塁数はリーグ最少の26。一方、本塁打はリーグ最多の47で、得点における本塁打の占める割合はリーグ最高の31.6%だ。ちなみに日本ハム(33.6%)、ソフトバンク(28.7%)とは大差ないものの、最下位の楽天(17.5%)を大きく引き離している。

 本塁打は得点に直結するものの、各打者の打撃力に頼りすぎるのはチームが勝利を目指すうえで良い傾向とは言えない。今季から采配面を任される橋上コーチがこう語る。
「今のチーム編成で考えると、点を取るために打線を全面に押し出しています。ただし、打って、打ってで点を取るのでは、勝ち続けるのが難しいのはプロ野球の歴史を紐解いてもわかる。チーム編成を含めて時間のかかることだけど、これから常勝西武を目指すなら、その辺がポイントになってきますね」

 ソフトバンクは強力打線がここまでリーグ最多の213四球を選び、39盗塁(2位)、52犠打(2位タイ)とそつのない攻撃を見せている。チーム打率が2割4分7厘とオリックスに並んでリーグ最下位の千葉ロッテは、総得点は最多のソフトバンクに次ぐリーグ2位タイの226。果敢に次の塁を狙う走塁や、終盤に勝負手を打つ伊東勤監督の采配によるところも大きいだろう。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント