冷笑を喝采に代えたヤングジャパン ラグビーアジア選手権で優勝

斉藤健仁

リーダー気質の選手が多く、コミュニケーションが深まる

内田主将(右)、中村(中央)、金(左)らがリーダーシップを発揮した 【斉藤健仁】

 また今回のヤングジャパンのどの選手に聞いても「コミュニケーションが取りやすかった」と声をそろえる。

 最終戦となった香港戦でも相手の圧力やレフリングに対応できず、前半20分、0対10とビハインドになっても、キャプテンのSH内田は「(円陣で)何をやるかということを話すことができたので、そこで冷静になれました」と振り返った。特に接点の部分でロールアウェイ(タックル後の転退)しない反則を取られていたため、接点にこだわらず、ディフェンスラインの人数を増やすことで対応したというわけだ。

 中竹HC代行は、「FWとBKの連係が大事」ということから、主将経験が豊かで、大会前に12キャップとチーム最多のSH内田をスキッパーに任命。そして短時間でチームをまとめるために、食事中の携帯電話は禁止し、くじ引きなどで席を決めて、普段話したことがない選手と積極的に話すことを促した。

 また3月のPRC(パシフィックラグビーチャレンジ)に出場していた選手も多く、そのときのリーダーだったFL金正奎、SO中村が引き続きリーダーシップを発揮、さらにサンウルブズと兼任していたFL安藤泰洋、村田毅、SH井上大介といったトップリーグ経験者が積極的に若手に話しかけたという。「リーダー気質の選手が多かった」とSH内田が言えば、最終戦前にリーダーの一人に任命されたHO坂手淳史は「コミュニケーションに長けた人が多かった。若手から意見を引き出そうとして話しやすい雰囲気があってチームがまとまった」と振り返った。

中竹HC代行「全員、今までにないくらい伸びました」

中竹HC代行(左)は選手の成長に満足げな様子を見せた 【斉藤健仁】

 もちろん、選手間の意思疎通の頻度を高めるだけでなく、戦略、戦術的に「セイムページ(同じ画)」を見ることができるように、まず、中竹HC代行は自分たちから仕掛ける「アクションラグビー」を掲げた。具体的には、フィジカルトレーニングなどは個人に任せ、歩きながら戦術を確認する「ウォークスルー」に多くの時間を割いた。そして1試合ずつアタック、ディフェンス、FWとBKとテーマを掲げて「個人ではなくチームで戦う意識が高かった」(中竹HC代行)

 つまり、チームの成長とともに、個々の成長を促し、それが相乗効果をもたらしたと言えよう。「ただ勝つというより、成長曲線としても完璧なところを目指していました。プロセスは満足していますし、(香港戦を終えて)100点、イメージ通りになりました。全員、今までにないくらい伸びましたね」と中竹HC代行は満足げな様子を見せた。サンウルブズと平行してアジアを戦っていた今回のヤングジャパンから、多くの選手が国際経験を踏み、2019年のW杯を目指す資格を得たと言えるかもしれない。

結果を残しつつ、個人もチームも成長

6月の日本代表でも複数の選手がメンバー争いに加わりそうだ 【斉藤健仁】

 U20年代の突破力に長けたNo.8テビタ・タタフ、最終戦の香港戦で2トライを挙げてMVPに選出されたWTBアタアタ・モエアキオラ、13番として可能性を感じさせたCTB前田土芽らは6月、イングランドで開催される、U20年代の世界大会であるジュニアチャンピオンシップに出場して南アフリカ、フランス、アルゼンチンと対戦する。そのため6月の日本代表に選出されることはないが、2019年に向けて大きな可能性を示した。

 そして6月のカナダ代表、スコットランド代表2試合に向けた30名のメンバーの中にも、今回の日本代表から何人か選出されることになろう。中竹HC代行がレポートを提出している。中でもSH内田は、自らの仕掛け、攻める方向の判断、正確なボックスキックと一皮むけたと言えよう。中村はSO、インサイドCTBの両方を高いレベルでこなし、キッカーとしても有能だ。WTB児玉健太郎はラン、ハイボールキャッチに強く、WTBのレギュラー候補として名乗りを挙げた。

 またFWでは、ワークレイトが高く、愚直に低いプレーを繰り返したLO谷田部洸太郎、昨年度のトップリーグ新人賞の力をいかんなく発揮したLO小瀧尚弘、サンウルブズで出場できなかった悔しさをぶつけていたLO宇佐美和彦、そしてFLとして身体能力の高さを発揮し続けた山本浩輝らは、日本代表として6月のメンバー争いに加わってくるはずだ。

 中竹HC代行が「私の指導キャリアの中ではトップに入るくらい素晴らしいチームでした」と言うほど、短期間ながら結果を残しつつ、個人もチームも成長するという難題をやり遂げた“ヤングジャパン”。その多くが6月、日本代表、そしてU20日本代表として世界の強豪チームに挑む。その際に、今回のARCの経験が大きな糧となり、昨年のW杯に続く歓喜につながるはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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