前田健太、打球直撃にもめげず…今後を期待させたNYデビュー戦

杉浦大介

初回に打球が右手を直撃

ニューヨークデビューとなった前田は初回に右手に打球が直撃したものの、メッツ打線を5回零封。5試合ぶりの4勝目を手にした 【Getty Images】

 その瞬間、前田健太のニューヨークデビューは短いものになるかと思われた。

 現地時間5月28日、ドジャースの前田は敵地シティフィールドで行われたメッツ戦に今季10度目の先発登板。初回2死からマイケル・カンフォートの弾丸ライナーが右手に直撃し、28歳の右腕はその場にうずくまった。

「少し痛みは感じましたけど、アクシデントでマウンドを降りるのは好きではない。とにかく行けるところまで投げようと思いながら投げてました」

 本人はそう語り、以降もマウンドに立ち続けた。しかし、盛んに右手を振る仕草をしていたことから見ても、万全の状態からはほど遠かったに違いない。打席でもバットを振ることはできない状態で、正直、本人の希望通りにチームが続投を許したのが意外なほどだった。

「逆にアドレナリン出た」

 ただ、この厳しい状況下で、前田は見事な投球を続けていく。打球直撃以降、5回終了時まで2四球のみで無安打。変化球を低めに丹念に集め、覇気のないメッツ打線を空回りさせた。

「こういう時は意外と集中力、丁寧さが増したりする。逆にアドレナリンが出て気持ちが入ったので、それがいい結果につながったのかな。(打球が)当たったあと雑にならないように心掛けました」

 3回表にはメッツの先発ノア・シンダーガードがチェイス・アトリーへの危険球で一発退場になり、スタジアムは騒然とした雰囲気になった。そんな中で、前田が極めて冷静に、上質なピッチングを継続したことは特筆に値する。最終的には5イニングを2安打2四球無失点でまとめ、ドジャースの9対1での勝利に大きく貢献。

 4月23日のロッキーズ戦以降、5試合で白星なしが続いていたが、ここで久々の4勝目(3敗、防御率3.00)を挙げた。敵地で慌てることなくアクシデントに対処したことで、前田はハートの強さがメジャー級であると証明したと言っていいだろう。

直近3試合は4失点でKO

 この日に至るまで、メジャーでの前田に対する評価は必ずしも最高級とは言えなかった。

「前田は良くやってるじゃないか。エース級とは言えないかもしれなけど、先発3〜4番手くらいなら十分やっていけそうだね」

 この日の試合前、筆者は顔なじみの地元記者にそう声をかけられた。一聴するとポジティブな言い回しだが、日本ではトップで活躍した投手に対し、“先発3〜4番手でやっていけそう”とは褒め言葉とは言い切れまい。

 実際に開幕前から今まで、前田に関しては“先発3番手くらい”という評価をよく耳にした。ここまでを見る限り、その見方通り、いや最近ではそれをやや下回る内容が続いていたのも事実である。25回1/3でわずか1失点、防御率0.36と完璧だったのは最初の4戦まで。過去5戦中4戦、直近の3試合はいずれも4失点でKOされていた。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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