山本隆弘の考えるリオへの扉を開く条件 男子バレー五輪予選の観戦ポイント

山本隆弘

OQTは一番出たくない大会

女子に続き、男子の五輪最終予選が28日から始まる。元全日本代表の山本隆弘さんの考えるリオへの扉を開くポイントは? 【坂本清】

 いよいよ2016リオデジャネイロ五輪バレーボール世界最終予選兼アジア大陸予選大会(OQT)の男子が5月28日に開幕。日本バレーボール界の運命を懸けた戦いが始まる。

 私自身も、アテネ・北京・ロンドンとOQTには3回出場した。日本代表として戦うさまざまな大会の中で、一番戦うのが難しい大会だと思っている。極論を言えば、悪い意味ではないが、一番出たくない大会。

 なぜなら当時の私は、4年ごとの五輪サイクルで現役生活を続けるか引退するかを考えていた。他の代表クラスの選手も同じように考えていたと思う。この五輪予選は、日本代表として、自分の人生と今後のバレーボール界を背負って戦わなければならない大会だからだ。もちろん、夢であった五輪出場を自分の手で勝ち取ることのできる大会でもある。

 これまでのバレーボールの五輪出場チームは、「開催国」「ワールドカップ(W杯)上位3位まで優先出場権」「アジア以外の各大陸予選優勝国」「五輪最終予選3会場の優勝国」「アジア代表国」の計12チームだった。

 今回は五輪最終予選にアジア予選も含まれている。アフリカ大陸を除く各大陸予選2位の国と日本を含めたアジア4カ国が集まり、アジア最上位チームと、それを除く上位3チームが五輪出場権を獲得するシステムとなっている。

 さらには、短期決戦で連戦になるため、チームの勢い・団結力・コンディショニングの維持が最も重要であり、選手にとって過酷な戦いとなる。

過酷な連戦、コンディション調整が重要に

自身の経験から、山本(右)はコンディション維持をポイントに挙げた 【写真:アフロスポーツ】

 中でも、コンディショニングの維持は周りには分からない過酷で重要な作業と私は考えている。私が現役時代に行っていたコンディションの調整方法は、毎日、または1日おきの筋力トレーニング。筋肉の増量もしくは筋肉に張りを持たせることで、けがの予防を行っていた。

 また体作りやコンディションキープに欠かせない食事に関しても、試合の3日前までタンパク質を多めに摂取し、試合に向けてはエネルギーを蓄えるために炭水化物(糖質)をメーンに変えていく方法を戦略的に長年続けていた。

 しかし、連戦になると、こうしたサイクルができなくなる。

 筋力トレーニングに関しては、やれたとしても軽めになり、食事はタンパク質も取りながらエネルギーとなる炭水化物(糖質)を取り続けないといけない。私の場合、1試合で約3キロ体重が落ちるので、次の日までに3キロ戻さないとパワーやスタミナといった体力の低下につながり、身体の免疫力も低下してしまうので、食事には細心の注意が必要となる。

 私の経験上、大会期間中に気を休める時間はない。

 試合では勝たなければ出場権を得ることができないという、今までに感じたことのないプレッシャーがかかる。試合開始時間は19時と決まっているが、ホテルに戻り食事を取るのは22時を回る。もちろん身体のケアも欠かすことができない。洗濯や、やるべきことをしていると、就寝は早くて2時くらいになってしまう。

 翌日も午前中から試合に向けた練習があるので、十分な睡眠は取れないことが当たり前になる。この状況で、究極のコンディションを維持しないと出場権が取れないのがOQTという舞台だ。

OQTで勝つための戦い方

W杯ではサーブで仕掛けることができていた。OQTでもそれができるか? 【坂本清】

 今回のOQTでは、出場8カ国から4カ国が代表権を獲得することができる。しかし、日本が出場権を獲得するにはアジアから出場する日本・イラン・オーストラリア・中国の中で最上位にならないと厳しい(出場獲得枠:上位3カ国+アジア最上位国)。

 選考基準が変わっても厳しい戦いが待っているのは変わらない。昨年の9月に行われたW杯では、20年ぶりに5勝を挙げ、6位という結果だった。期待の若手で構成されたNEXT4(柳田将洋、山内晶大、高橋健太郎、石川祐希)が飛躍する大会となり、男子バレー人気に火をつけてくれた。さらには、4年前のロンドン五輪予選の悔しさを知っているキャプテンの清水邦広をはじめ鈴木寛史、米山裕太、永野健がチームをまとめ、ベテランと若手の融合が快進撃につながったように思う。

 高さとパワーでは太刀打ちできない日本は、サーブからしっかり仕掛けて相手の攻撃枚数を減らし、ブロックの的を絞るというトータルディフェンスでボールをつないでいく。サーブレシーブでは、直接的な失点を極力ゼロに抑えて、ビックサーブでも何とかコート上に上げて攻撃に持っていく。苦しい状況になっても相手ブロックを利用しながらリバウンドを取り、日本チームの状態が良くなるまで我慢してサイドアウト(相手のサーブ時に得点すること)を取っていくという粘り強いバレーが多く見られ、得点を重ねていくシーンが見られた。

 課題はフローターサーブ。世界基準まで精度とスピードを上げることが早急に必要だと感じた。それから、試合展開が劣勢になった時にチームとして1点を取りにいけず、スパイカーの個人技術に頼ってしまったプレーも課題として挙げられる。

 精神的にも肉体的にも非常にきついが、高さとパワーで劣っている分、世界一のスタミナやコンディショニングを身につけ、試合開始から終了まで全員で1点を取りにいくことが、リオへの扉を開く絶対条件となる。

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著者プロフィール

サウスポーから繰り出す強烈なスパイクを武器に、2003年のワールドカップでは、ベストスコアラーとMVPを獲得するなど日本のエースとして活躍する。 04年日本人バレーボール選手としては初めてプロ契約を結び、プロバレーボール選手となる。08年の北京五輪に出場。12−13年シーズンをもって現役を引退。バレーボールで培った経験を生かし、バレーボールの解説や普及活動、メディア出演等で活躍中。

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