ダニエル太郎、全仏で感じた悔しさの訳 視界に入ったトップ選手からの勝利

内田暁

2回戦でワウリンカに敗れたダニエル(写真)。彼の顔に色濃く浮かんでいたのは“悔しさ”だった 【写真:アフロ】

 2014年の全米オープンで、予選を勝ち上がり初めてグランドスラムの舞台に立った時、彼は世界6位(当時)のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)に敗れながらも、「意外と差は感じなかった。全然がっかりはしてないです」と笑顔を見せた。
 昨年の全仏初戦でフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)にストレート敗退を喫した時も、そして今年1月の全豪でルーカス・ロソル(チェコ)にフルセットの熱戦の末に敗れた時も、彼は「良い経験になった」あるいは「今日のような悔しい敗戦は、上に行くために必要なプロセス」と、明るい側面に目を向けていた。

 だがこの日……全仏オープン2回戦で、ディフェンディング・チャンピオンのスタン・ワウリンカ(スイス)に6−7、3−6、4−6で敗れた時、彼の顔に何より色濃く浮かんでいたのは“悔しさ”であった。

信念がもたらしたグランドスラム勝利

 ダニエル太郎、世界ランキング93位。
 米国人の父親と日本人の母親を持つ、この190センチの長身テニスプレーヤーは、13歳から暮らすスペイン仕込みの粘り強く、最後の1球まで諦めずボールを追うプレーが身上だ。

 彼は、「焦る」ことが嫌いである。視界の外にある、遠い未来に想いを馳せることも好まない。だから「夢は何?」と問われると、「特に考えてないです」と答える。

「自分が今やっていること自体が、昔からやりたかったこと。なので、このまま続けていけるのが夢です」

 1つのラリーを、ポイントを、勝敗を、経験を……それらを積み重ね、一歩ずつ先に進んでいくことが、彼が常に追い求める夢だ。

 そんなダニエルの信念が、今回の全仏で、グランドスラム初勝利をもたらした。
 初戦の対マルティン・クリザン(スロバキア)戦。ダニエルは2セットを失い、第3セットも先にブレークを許してしまう。
 9割型、勝敗は決したと思われる場面――。しかし彼は、「一つひとつやっていく」ことだけに集中した。

「とにかく、強くボールを打とう。ミスしても、強く打っていこう」

 コート内に踏み込み、早いタイミングでボールを相手コートに打ち込む。全身に赤土を浴びるように走り回り、地面すれすれのボールを拾い、相手のミスを誘っていった。第3セットを逆転で奪い、第4セットも0−4と敗北まで2ゲームまで追い詰められながらも、反撃に出る。決して諦めぬダニエルのその姿が、相手の心を追い詰め、肉体の負担を強いる。第5セットを3ゲーム連続で落とした時、クリザンは腕の負傷を理由に棄権を申し出た。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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