ダニエル太郎、全仏で感じた悔しさの訳 視界に入ったトップ選手からの勝利
2回戦でワウリンカに敗れたダニエル(写真)。彼の顔に色濃く浮かんでいたのは“悔しさ”だった 【写真:アフロ】
昨年の全仏初戦でフェルナンド・ベルダスコ(スペイン)にストレート敗退を喫した時も、そして今年1月の全豪でルーカス・ロソル(チェコ)にフルセットの熱戦の末に敗れた時も、彼は「良い経験になった」あるいは「今日のような悔しい敗戦は、上に行くために必要なプロセス」と、明るい側面に目を向けていた。
だがこの日……全仏オープン2回戦で、ディフェンディング・チャンピオンのスタン・ワウリンカ(スイス)に6−7、3−6、4−6で敗れた時、彼の顔に何より色濃く浮かんでいたのは“悔しさ”であった。
信念がもたらしたグランドスラム勝利
米国人の父親と日本人の母親を持つ、この190センチの長身テニスプレーヤーは、13歳から暮らすスペイン仕込みの粘り強く、最後の1球まで諦めずボールを追うプレーが身上だ。
彼は、「焦る」ことが嫌いである。視界の外にある、遠い未来に想いを馳せることも好まない。だから「夢は何?」と問われると、「特に考えてないです」と答える。
「自分が今やっていること自体が、昔からやりたかったこと。なので、このまま続けていけるのが夢です」
1つのラリーを、ポイントを、勝敗を、経験を……それらを積み重ね、一歩ずつ先に進んでいくことが、彼が常に追い求める夢だ。
そんなダニエルの信念が、今回の全仏で、グランドスラム初勝利をもたらした。
初戦の対マルティン・クリザン(スロバキア)戦。ダニエルは2セットを失い、第3セットも先にブレークを許してしまう。
9割型、勝敗は決したと思われる場面――。しかし彼は、「一つひとつやっていく」ことだけに集中した。
「とにかく、強くボールを打とう。ミスしても、強く打っていこう」
コート内に踏み込み、早いタイミングでボールを相手コートに打ち込む。全身に赤土を浴びるように走り回り、地面すれすれのボールを拾い、相手のミスを誘っていった。第3セットを逆転で奪い、第4セットも0−4と敗北まで2ゲームまで追い詰められながらも、反撃に出る。決して諦めぬダニエルのその姿が、相手の心を追い詰め、肉体の負担を強いる。第5セットを3ゲーム連続で落とした時、クリザンは腕の負傷を理由に棄権を申し出た。