エイシンヒカリが高めた日本馬の評価 奥野庸介のイスパーン賞回顧

JRA-VAN

道悪への不安は全くの杞憂に

不利と言われた道悪の馬場で、10馬身差の圧勝を見せた武豊とエイシンヒカリ 【photo by Yasufumi SAWADA】

 前日まで降り続いた雨によって、シャンティイ競馬場の芝はいつにも増して深く、重そうに見えた。このような馬場の経験のないエイシンヒカリには、一抹の不安がよぎる。しかし、それも全くの杞憂(きゆう)に終わった。

 曇り空のパドックに姿を現したエイシンヒカリは逞しさを増し、欧州の深い芝に対応できるように改造されていた。

 ぐずついた空模様の影響は大きく、1番人気だったエイシンヒカリの人気は当日徐々に後退。本命の座を昨年の仏ダービー馬ニューベイに譲り、発走の直前には4番人気の8.4倍にまで下がった。現地ファンが考えたであろう、この馬場なら欧州馬有利という判断は決して間違いではなかった。しかし、エイシンヒカリの能力はあまりに桁違いだった。

 誰もが予想した展開は、“道悪巧者”ヴァダモスの奇襲で構図を変えた。外からかぶせられ、単騎先頭を封じられた武豊騎手とエイシンヒカリだが、慌てず騒がず。相手の出方を見て無理をせず、外に切り替えて2番手を追走した。よほど自信があったのだろう。

 逃げるヴァダモスは主催者発表の馬場状態(英語で“不良”のベリーソフトより一段階重いホールディング)にしては幾分早い、49秒79で最初の800mを通過。エイシンヒカリは重心を下げ、鞍上にいつでも動ける意思を伝えていた。

 馬群が最終コーナーを回り直線に入って、ニューベイやダリヤンら現地有力馬も鞭を振るい始めたが、それらを尻目にヴァダモスを並ぶ間もなくかわしたエイシンヒカリは、あっという間に独走態勢に入った。坂を登って直線の半ばで勝利を確定させると、その末脚を更に伸ばし、G1馬を含む欧州トップクラスを10馬身ちぎった。

 2着にダリヤン、3着にシルバーウェーブが続いたが、8頭の存在は無きに等しいもの。芝1800mの勝ちタイムは1分53秒29。良馬場なら1分45〜46秒台が予想された馬場だったが、エイシンヒカリはフィジカルと両輪をなす強いメンタルで第一難関を乗り切った。

英紙「ロイヤルアスコットの大本命決定」

現地ファンも予想しなかった圧勝。名だたる日本の名馬にも増し、エイシンヒカリは日本馬のポジションを向上させた 【photo by Yasufumi SAWADA】

 タイキシャトルのジャックルマロワ賞(半馬身差)、エルコンドルパサーのサンクルー大賞(2馬身半差)、アグネスワールドのアベイユドロンシャン賞(短首差)とジュライC(短頭差)、オルフェーヴルのフォワ賞(2012年は1馬身差、13年は3馬身差)……。

 どのレースも歴史に残る勝利だったが、エイシンヒカリとその父のディープインパクトは世界における日本馬のポジションをさらなる高みに運んだと言えそうだ。

 次走は、英国王室が主催するロイヤルアスコット開催のG1プリンスオブウェールズS(6月15日、芝10ハロン)。

 主立ったライバルはG1BCターフの覇者ファウンド、G1ドバイシーマクラシックでドゥラメンテに勝ったポストポンド、そして、イスパーン賞からの巻き返しを狙うニューベイなど。5月22日のG1タタソールズゴールドCに勝って、中距離路線で頭ひとつ抜けたファシネイティングロックは、秋を見据えて休養入りを発表した。

 英国のレーシングポスト紙はイスパーン賞翌日の紙面で「ロイヤルアスコットの大本命決定」と報じた。天衣無縫に振る舞う規格外の天才によって、重い扉がこじ開けられようとしている。

text by Kazuhiro Kuramoto
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