三浦隆司、再び世界の頂点を目指し―― 雪辱のチャンスは今秋以降に実現か

船橋真二郎

再起戦でも“ボンバー・レフト”健在

再び世界の頂点を目指し動き出した三浦隆司 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 あのラスベガスの激闘から5カ月余り。三浦隆司(帝拳)がリングに帰ってきた。5月7日、東京・後楽園ホール。前WBC世界スーパーフェザー級王者は初回2分41秒、2階級上のフィリピン・スーパーライト級8位、ジミー・ボルボンを得意の左ストレート一撃で一蹴し、格の違いを見せつけた。

「最初は少し硬かった」と三浦は振り返ったが、動きがほぐれる前に終わってしまった、というのが正直なところだろう。課題に挙げてきたディフェンス面のチェックも、時間的に十分ではなかった。それでも“ボンバー・レフト”の威力が健在であることは存分に証明した。

「KOパンチは拳にガツンと伝わってくるか、抜ける感じのどちらか。今日は抜けるほうだった」と、テンカウントを聞かせた左ストレートの感触について語った三浦は「自分で『ここだな』と思ったところで、きれいに決まった」と表情を少し緩めた。

 サウスポースタンスから打ち込む左強打は三浦の代名詞だ。これまで7戦の世界戦で奪った計11度のダウンも、ほとんどが左から生まれている。そして昨年11月、ボクシングの聖地とも呼ばれるラスベガスで、三浦のその左拳は歴史の扉を開きかけたのである。

最高の舞台での壮絶なフィナーレ

バルガスを追い詰めたが、9回に逆転されて王座を手放してしまった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 三浦が無敗のメキシカン、フランシスコ・バルガスを迎えた5度目の防衛戦は、日本人ボクサーとしては過去に例がないような舞台にセットされた。注目のスター対決、サウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)対ミゲール・コット(プエルトリコ)というビッグイベントのセミファイナル。さらにはアメリカのボクシング2大中継局のひとつであるHBOのPPV(ペイ・パー・ビュー)にラインアップもされた。

 つまり、ボクサーの誰もが夢見ながら、限られた者しか立てない最高の舞台だった。それだけではない。北京五輪出場経験を持つメキシコのスター候補を相手にインパクトを残せば、さらに次のステージへと進む可能性もあるのだ。「絶対にぶっ倒してやると気合いが入り過ぎて、左一発狙いになってしまった」と力が入ってしまったのも当然だったかもしれない。

 試合は右フックを正面から食らった三浦が腰砕けになる波乱で幕を開けた。しかし、窮地を乗り越えた三浦は4回、左ストレートでバルガスをキャンバスに吹っ飛ばし、形勢を逆転する。8回終盤には再び左でぐらつかせ、勝利まであと一歩と迫った。実際、三浦の左でバルガスの右目はシャットアウト寸前。消耗も激しく、レフェリーが次のラウンドで試合を止めると、バルガスに宣告していたほどだった。ところが壮絶なフィナーレがその9回に待っていた。

 倒しにいった三浦。後がないバルガス。両者の思いが正面から対峙すると、バルガスのコンビネーションが先に三浦を捉えた。左アッパーから左フック、続く右ストレートで三浦が大きくつんのめる。ここは踏ん張った三浦にさらに右アッパー、左フック。この5発がことごとくクリーンヒットしたのだから、たまらない。キャンバスに横倒しに転がった三浦はすぐ起き上がろうとして、また這いつくばる。それでもフラつく足で立ち上がりながら両手を上げ、必死の形相でレフェリーに続行をアピールした。

 試合が再開されると、三浦はすぐにバルガスの猛攻にさらされた。なりふり構わず、三浦は懸命にクリンチで耐えしのぐが、心は折れずとも、ダメージはすでに限界だった。バルガスの強烈な右で三浦の上体が傾いだところで、ついにレフェリーが両者の間に割って入った。

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著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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